英国・エディンバラ公も愛したブランド、アルヴィス|新旧2台を乗り比べ

Kazumi OGATA

世界的にコンティニュエーションという言葉の元に、かつての名車再生が流行っている。ジャガーXKSS、Eタイプ、ブロワーベントレー、アストンマーティンDB5等々。こうした車たちを再生するのはメーカー自身である。つまり今もそのメーカーは存続している。だがアルヴィスは違う。そもそもTGジョンによって1919年に創業されたアルヴィスは、自動車メーカーとしては1967年にその命脈が尽きている。

日本だけでなく、どうやらイギリスでもアルヴィスの名は忘却の彼方になりつつあるようだ。ただそうは言ってもアルヴィスは高級車として名を馳せたブランドである。1930年代のライバルはロールス・ロイスでありベントレーであったそうだ。当然非常に高価。イギリスでは1930年代に家一軒250ポンドで買えたそうだが、アルヴィスは高価なものだと1500ポンドもしたという。それはブガッティよりも高かったといえば、誰でも如何に高価であったかわかろうというもの。車の作り方もまさに当時流で、アルヴィスが仕立てるのはエンジンやシャシーなどいわゆるメカニカルな部分だけ。後は購入者が好みのボディをコーチビルダーに仕立ててもらうという手法を取っていた。

そんなわけだから、メカニズムにも凝っていて、レースでも活躍した。1928年には当時としては斬新極まりない1.5リッターエンジンをフロントに積み、前輪を駆動するFWDのレーシングカーで、ル・マン24時間のクラス優勝を遂げている。この成果をもとにアルヴィスは世界初のFWD量産モデルを作り上げるのだが、残念ながらあまり成功はしなかったようである。このほかアルヴィスが投入した世界初の技術はシンクロメッシュギアボックスがある。しかし、アルヴィスの車作りは徐々に時代に合わなくなっていった。理由はボディを作るコーチビルダーがその活動を停止したこともあるが、それ以上にアルヴィスが自動車から撤退した理由は、軍事産業部門の方が実入りが良かったからのようである。こうして工場をたたんだ時に残っていたおよそ2万2000台といわれる生産車記録や膨大な量のパーツ、それに5万枚に及ぶ設計図面はすべて、レッドトライアングル社に移管された。ちなみに2万2000台のうちの20%のモデルは今も現存しているという。このレッドトライアングル社を1994年に引き継ぐことになったのがアラン・ストート。現在のアルヴィス社オーナーである。

それまで20%現存していた古いアルヴィスの修理、レストアなどに終始していた会社を、新たに当時の面影をそのままに現代に蘇らせるコンティニュエーションを思いついたのが彼であった。

右が1937年ヘリテージモデルで、左は2020年コンティニュエーションモデル。ステアリング操作通りのスポーティな走りが可能だが、3m超もの長いホイールベースのおかげでゆったりとした乗り心地を楽しむことができる。

ヘリテージモデルのエンジンや機関系。コンティニュエーションモデルがいかに正確にデザインを継承しているか、後半の画像と比較してみるとよく分かる。ドラムブレーキの使用は慣れが必要だ。

エンジンルーム内に用意されているホイールの脱着に使用するハンマー。これを用いてワイヤースポークホイールを締め付けるときの高揚感はクラシックカーの醍醐味である。

ステアリングホイール上にはエンジン点火時期を調整する進角調整レバーが付く。この時代の自動車はエンジンの始動時や走行速度によって手動で点火時期の進角を調整しながら走っていた。

こうして、戦前のアルヴィス4.3リッター・ヴァンデンプラ・ツアラーが現代に忽然と姿を現した。アルヴィスにとってラッキーだったのは、その年間生産台数が極めて少ないこと。年間300台を超える生産をする自動車メーカーのモデルは、現代の安全装備や排ガス規制をクリアさせていなくてはならず、年間300台の生産台数を超えないアルヴィスの場合はその縛りから外れるため、イギリスのDVSA(Driver and Vehicle Standards Agency)によって、ナンバー取得を可能としているのだという。しかも当時作られた年式でそのまま登録が可能。つまり、コンティニュエーションといえども4.3リッター・ヴァンデンプラ・ツアラーの場合、1937年製として登録される。これが根拠となって日本でも当時のままの車が、そのまま日本市場でも登録が可能なのである。

この年代のALVISのマスコットは、アメリカ先住民を模したとされている。

もちろん、当時のモデルをそのまま作り上げたとしてもコンティニュエーションとしての意味はない。一見まったく同じに見える最新のモデルは、エンジンブロックこそ当時と同じものだが、キャブレターに代えて電子制御燃料噴射を装備。トランスミッションは当時モノのZF4速から、トレメック製6速に変更。ブレーキもドラムブレーキから最新のブレンボ製ディスクにチェンジ。そしてステアリングもウォームローラー式の軟体動物のような動きをするものからシャキッとしたラック&ピニオンに代えられた。さらにサスペンションもダンパーを油圧式のモノに変更している。外装だけがほぼ当時モノだが、インテリアもウィンカーやヘッドライトスイッチなどがいずれも現代風に改められ、要は現代の道路事情においても普通にドライブすることを可能にしたモデルに仕上がっているというわけである。

車両を輸入する明治産業は、1950年代に明治モータースとしてアルヴィスの輸入に関わっていた会社。ここにもコンティニュエーションの精神が生きていたというわけである。さて、当時のモデルをレストアした正真正銘の1937年式モデルと、2020年に生まれたばかりの1937年製。果たして何故、この車がコンティニュエーションカーとしてチョイスされたのだろう。それは第2次世界大戦が始まる直前にこの車が150台の生産認可を受け70台余り生産したところで戦争に突入。残りはそのまま作られることなくパーツとして残されていたというわけだ。そして残っていた77台分のパーツから作られたのが、コンティニュエーションモデルなのである。

堂々としたフロントマスクをもつアルヴィス4.3Lヴァンデン・プラ。共にオールシンクロメッシュを採用しているが、ヘリテージモデルのトランスミッションは4速、新しいコンティニュエーションモデルは6速となっている。

この新旧の2台を東京の雑踏から葉山まで、1日交互に乗ってドライブした。80年以上も前に作られた車が、果たしてトラブルもなくロングドライブに耐えられるのか。そんな心配はまったくの杞憂である。オリジナルモデルは明治産業竹内社長のドライブで、一昨年のラ フェスタ ミッレミリアを完走した実績がある。気を付けなければいけないのは現代車の感覚で車を走らせてはいけないということ。特にブレーキディスタンスは長めに。そして直進を保つにはまめな修正舵が必要だということを念頭に入れなくてはならないが、驚いたことにそのトルク感のあるエンジンは、コンティニュエーションを上回るゆとりを感じさせてくれた。そしてこのくらい、メカニズムに信頼感を置ければ、クラシックカーを日常的に愉しむことが出来るだろうなぁとも思えたのである。

一方のコンティニュエーションはさすがにそうした機構的な心配は皆無である。それに同じ形をしていながら、走りは完全に別物だ。その気になればどちらのモデルも追い越し車線を独占して走ることだって可能なレベルの走りを披露するが、恐らく走行後の疲労感という点では圧倒的にコンティニュエーションの方が少ないと思う。コンティニュエーションの良さは、高い直進安定性と信頼の置けるブレーキやハンドリング。そのスタイルとは裏腹に結構攻めた走りも出来る点が大きな違いである。

コンティニュエーションモデルの豪快かつ軽快な走り。ラックアンドピニオン方式のステアリングギアボックスを採用することで旋回応答性と直進安定性が格段に向上している。

アルヴィスの最高傑作として評価されている伝統の4.3リッターエンジンに電子式燃料噴射装置を備えている。エンジンルームのクラシカルな雰囲気はそのままだ。

コンティニュエーションモデルはウォールナットのインストルメンタルパネルを採用。ステアリングホイールもオリジナルに近いデザインを踏襲している。

コノリー製の本革がおごられたコンティニュエーションモデルのインテリア。フラットなシートだが適度なホールド感をもち、乗り心地の良さにも貢献している。

フロント側が大きく開くドア形状。ヒンジが後ろで前側から乗り降りする、いわゆるスーサイドドアをオリジナル同様に採用している。思いのほか乗り降りはしやすい。

クーラーやオーディア類はオプションで装着が可能だ。雨の日の曇り止めやオープン時の快適性など、これらの装備の恩恵は実際に使ってみるとよくわかるはずだ。

他社に先駆けて、すでに1933年にオールシンクロメッシュ・トランスミッション機構を採用した歴史を継いで、6段オールシンクロメッシュ式を採用している。

問題は何故アルヴィスというチョイスに行きつくのか…?というところである。冒頭にも書いたが、かつては高級車として鳴らしたアルヴィス。その高い品質を味わうというのもひとつの魅力だが、ロイヤルファミリーにも愛された車であるという点も見逃せない。先ごろ逝去されたエディンバラ公もアルヴィスの愛用者だった。購入されたのはTD21シリーズⅡドロップヘッドクーペであったが、ZF製5速マニュアルにアップグレードされ、電動のソフトトップをオーダーされたそうだ。さらに特注でウィンドスクリーンを高くしたとある。まさにビスポークのオーダーを入れて拘り抜いた車をエディンバラ公が愛された。アルヴィスというブランドは英国王室にも認められた逸品なのである。 因みにエディンバラ公のアルヴィスは今もサンドリンガムのロイヤルレジデンスに展示されているという。

アルヴィス 4.3リッターモデル コンティニュエーションモデル ヴァンデン・プラ
The Alvis 4.3Litre Continuation Model Vanden Plas Tourer

諸元表(標準仕様)
全長 x 全幅 x 全高:4900mm x 1700mm x 1360mm(幌装着時1500mm)
ホイールベース:3135㎜
エンジン: 直列6気筒OHV
総排気量:4,387 cc 
最高出力: 160ps
トランスミッション: 6速オールシンクロメッシュ
サスペンション形式:フロント 独立懸架式 リア リジットアクスル
ブレーキ形式:油圧式4輪ディスクブレーキ
ホイール:600 X 19
冷却装置:高効率ラジエター
燃料供給装置:アルヴィスオリジナル燃料噴射装置
電気系統:アルヴィスオリジナル エンジンマネジメントシステム
     高出力スターターモーター、大容量オルタネーター
シャシー:亜鉛メッキ高級鋼
コーチワーク:アッシュフレームおよびアルミボディ



文:中村孝仁 写真:尾形和美 Words: Takahito NAKAMURA Photography: Kazumi OGATA

文:中村孝仁 写真:尾形和美 Words: Takahito NAKAMURA Photography: Kazumi OGATA

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