車に魅了された男|松田芳穂と「永遠のフェラーリ」

Gensho HAGA

車を操る悦びを一度でも体験すると、それを忘れさることは決してできない。その思い出は何年経っても心にとどまり、人々は車に魅了され続ける。かつて、フェラーリ・ミュージアムを静岡県御殿場市に創設した松田芳穂氏は、車の虜となった日本人の代表的な存在であり、現在でもその情熱は衰えることを知らない。

1990年、美しい富士山を望む御殿場市にフェラーリ・ミュージアムを創設した松田芳穂氏が、自身初のフェラーリとして512BBiのステアリングを握ったのは、そのわずか数年前のことである。瞬間的に、モデナ生まれの跳ね馬が持つ魔性にすっかり心を奪われてしまった松田氏。512BBi から受けた"ショック" はとても強く、今でも鮮明に心に刻まれているという。
 
じゃじゃ馬のようにスピード感あふれる一台を走らせたことで、"車を操る" ということの本当の楽しさを知り、以来フェラーリに夢中になった。それから松田氏のフェラーリコレクションが築き上げられるまで、さほど時間はかからなかった。166MMや250TR 、そしてデイトナ、ミドシップ308 や究極のターボ車F40 。そしてフォーミュラーカーの312Tや数々のスペチアーレモデルなど、とにかくフェラーリのすべてを体感していったのだ。250GTOに至っては同時に4台所有していたこともあった。



 
松田氏がフェラーリの魅力にここまでのめり込んだのは、一代にしてフェラーリの名を世界に轟かせた"カリスマ" エンツォ・フェラーリの存在があってこそだが、それと同じくらいに大きな魅力はフェラーリV12エンジンの絶対的な存在感だ。ひとたびイグニッションを回せば、けたたましく咆えるそのサウンドは、耳について離れることはない。そして、もちろん組み合わされるべきトランスミッションはマニュアルだ。それでこそ、"自身で操っている" 感覚を全身で味わうことができるのである。
 
松田氏にどのような車が好きなのか伺ってみると、このような言葉が返ってきた。「ミドシップでもフロントエンジンでも構わないんだけど、僕は12気筒が好きなんだよ。V8も悪くないけれど、やはり湧き出てくるパワーがまったく違うから。新しいフェラーリも確かに良いのだけれど、1990年代までのフェラーリはメンテナンスのたびに調子が良くなったりして、とても楽しいものなんだ。クラッチはめちゃくちゃ重いし、特に512Mはハンドルの切り返しがとてもたいへん。でもそれが個性でもあり、自分で乗りこなしている感覚がある」。松田氏がフェラーリを走らせることをどれだけ愛しているのかということがわかる。


 
今回、取材のため550マラネロと共に御殿場へ駆り出したのは512M 。ロッソフィオラノのボディにグリーンレザーのインテリアというユニークな組み合わせであり、まさにフェラーリに製作してもらった"スペチアーレ" である。一度は手放したものの、数年前にある販売店で偶然に見つけて、すぐに買い戻した。なぜ元のオーナーが自分であったとすぐに気づいたか。それはドアシルのプレートに刻まれた " PILOTAMr. Y. MATSUDA "の文字が輝いていたためである。





「このような誂えも、当時のフェラーリの魅力だった」と懐かしむ。現在のコレクションは、比較的新しいモデルが中心となっている。「新しい車でどう遊ぶか」が課題だが、「最新のフェラーリは速いけれど安全。時代に合った楽しみ方をできればいい」と決めている。SF90ストラダーレ、ローマなどといったニューモデルの納車ももう間もなくのこと。「フェラーリは本当に楽しい」と繰り返される言葉の真意は正真正銘の本物だ。「いつになったら車をやめられるのか」と、松田氏は笑いながら話してくれる。

文:オクタン日本版編集部 写真:芳賀元昌 Words:Octane Japan Photography:Gensho HAGA

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