アートと建築を巡るハイ・モードなドライブ  MAEBASHI・TAKASAKI × Porsche TAYCAN

Photography:Ken TAKAYANAGI

最先端エレクトロニクスを駆使し、高度にデジタル制御されたポルシェ初のEV、タイカン。そんなタイカンで向かったのはかつて絹産業で栄え、日本の近代化に貢献した前橋。全国でも有数の自動車保有数を誇る車社会を実現しながら、それゆえの空洞化が問題視される市街地。そんな街にかつての賑わいを取り戻そうという動きが。変革の拠点となるのは創業300年の宿、白井屋。建築家・芸術家らクリエイターたちの感性で生まれ変わった『白井屋ホテル』と前橋はまさに自動車の未来のカタチを探るタイカンに通ずる刺激的なエネルギーに溢れていた。

人は常に刺激を求めている。新しい刺激は人々を惹きつけ、広く受け入れられることでムーブメントとなる。ムーブメントは生活に根付いて文化へと発展し、やがて歴史に刻まれることとなる。大切なことは人々が暮らす社会にとって、その刺激が真に意義のあるものかどうかだ。

白井屋ホテルはグリーンタワーとヘリテージタワーの二棟建て。かつての土手をイメージしたグリーンタワーには、小さな白い小屋が点在する。アーティストの作品が展示された小屋もあれば、サウナを楽しめる小屋もある。この写真もその小屋のひとつからの眺め。

 
ポルシェは2020年に同社初となるフルエレクトリック・ヴィークル"タイカン" を市場に打ち出し話題をさらった。EVに関してはすでにテスラをはじめルノーやBMW、それに我が国では日産や三菱からリリースされており、電動自動車の勢いは確実に増している。しかしスポーツ走行、ドライビングプレジャーという点において、ポルシェ・タイカンはやはり別格の存在感といわねばならない。

ヘリテージタワーを象徴する一階から4階までぶち抜いた大胆な吹き抜け。その巨大な空間には迷路のような階段とアーティスト、レアンドロ・エルリッヒによる作品「ライティング・パイプ」が縦横に走る。かつての水道管を彷彿させるパイプは光を放って目を楽しませる。


とりわけ上級クラスのターボS モデルともなると、761ps/1050Nmという圧倒的なスペックで他を圧倒する。初見のイメージでは4ドアクーペということから、パナメーラの系譜に連なるGT的な乗り味を予想させた。しかし、実際にステアリングを握りアクセルを踏み込むと、その予想はすぐさま覆されることとなる。シートに身体が押し付けられるようなリニアな加速に加え、低く抑えられたノーズやフロントにエンジンを載せないレイアウトがもたらすハンドリングは、非常にアクティブでクイックだ。なるほど"ターボ"の名称も心底納得のいく、生粋のスポーツカーとして完成しているのである。

前橋市民の想像力を育む拠点として展開するアーツ前橋。外装に曲線を描くパンチングメタルのパネルを使用しており、未来感あるタイカンともどこかマッチする。

 
フルエレクトリックゆえに、すべてのアクションはバッテリーが握っている。現在、タイカンのフル充電時の航続距離は優に400kmを上回るものだが、それだけのバッテリーを搭載しながらもシート座面が相当低い位置に抑えられていることに驚く。と同時にEVにとっての最大重量物であるバッテリーを可能な限り小さく低く設置することで低重心化にも寄与していることに気づく。このことからもポルシェがタイカンをいかに"スポーツカー" として仕立てようとしているかが見て取れる。ところでタイカンが搭載するのは800V 高電圧システムだが、高い電圧にて運用できるということは、同じパワーでも電流を抑えつつ充電がおこなえるということ。熱が発生しにくいことや太い配線が不要なことに加え、チャージ時間もスピーディに短縮可能だそうだ。

タイカン ターボSのインパネ回り。ポルシェ初となる18.6インチTFT、フルデジタル・メーターは、針を持たないデザインであり、非常に先進的なルックス。

 
スポーツカーらしい優れた動力性能もさることながら、ドライブ全体をとおし感銘を受けたのは、このタイカンがデザインにおいても特筆すべき部分を多彩に取り揃えているところ。インパネ回りはポルシェ初のフルデジタル・メーターが奢られ非常に未来的。しかし5連のメーターサークルや水平基調のダッシュパネルは、往年の911 を彷彿させる仕上がりだ。エクステリアにおいてもその香りは確実に引き継がれている。特にリヤ回りはポルシェらしさの集積であり、クリアの立体ロゴこそ新しさを感じさせるが、"フライ・ライン" と称するリヤに向け緩やかに傾斜するルーフラインに始まり、丸みあるヒップのシルエットへと完結するデザインは、確かに911 へのオマージュが滲んでいる。まさに伝統と革新。アイデンティティを失わず未来へと繋げていく橋渡しが、この1台にてしっかり具現化されている。

文:長谷川剛 写真:高柳健 Words:Tsuyoshi HASEGAWA Photography:Ken TAKAYANAGI

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