16の世界記録を樹立!平均速度156mphで60時間を走破したメルセデス・ベンツ

daimler

この記事は『「今も忘れられない」コンピューター上で設計された世界初の自動車』の続きです。

1970年4月、ポール・フレールは『モーター誌』の記事にこう書いている。「C111は快適性とハンドリングの卓抜したコンビネーションを備えている。特にハンドリングについてはレーシングカー・レベルといっていい」

 
2015年、私はメルセデスが今も公道走行を許しているC111の最後の一台に乗る機会があった。そしてポール・フレールが正しかったことを改めて確認したのである。
 
1971年、2台のC111-Ⅱに280SE3.5 サルーンと同じM116型3.5リッター V8エンジンが搭載された。ここに紹介するのはそのうちの一台である。幅広いサイドシルを跨ぎ、ガルウィングドアを引き下ろして閉めると、キャビンは精密さと普遍性を備えてきわめて論理的にレイアウトされているのが分かる。スーパーカーとしてはいささか落ち着きすぎているようだ。ボディワークについては全権委任されたものの、室内に関してはブルーノ・サッコの想像力はメルセデス・ベンツの哲学によって抑制されたのかもしれない。


 
5段ギアボックスはいわゆるドッグレッグタイプで、スロットルペダルはメルセデスの例にもれずストロークが長い。ナルドで無数の世界記録を樹立した車としては、C111は実際の路上で扱うのに何ら特別な注意を必要としない。狙ったラインをたどるのはまったく容易であり、ステアリングのギア比は高いが敏感すぎず、ターンインは漸進的で安定感に溢れている。ミドシップレイアウトのおかげで、きついコーナーでもニュートラルだ。要するに気持ちよく走ることができる。

高回転型のヴァンケル・ロータリーに比べればトルクが豊かなV8エンジンはやや鈍い性格と思われるかもしれないが、そのおかげでハイギアリングをものともせず、力強く加速するし、しかも洗練されている。C111はその自然な走行感覚を生き生きと伝えてくれたのである。
 
結局、大量生産には向かないC111は市販化には至らず、この車の発売を待ち望んでいた人々を大いに失望させたが、メルセデス・ベンツは新たな目的地を見つけた。ロータリーエンジン計画の中止を受けて、その代わりにディーゼルエンジンの効率とパフォーマンスを証明することを目標に定めたのである。そうして生まれたのが190bhpを発生する3リッター 5気筒ターボディーゼルを積んだC111-ⅡDである。サッコはさらにエアロダイナミクスを磨き上げ、世界最高レベルのCd=0.25を達成、メルセデス・ベンツは速度記録を更新する準備が整った。そしてその車はあらゆる予想を超えてみせた。
 

オクタン編集部

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事