アルピナに魅せられて│「ネジ一本までレストアされた状態」を本社で実現

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ブルカルト・ボーフェンジーペン氏によって創業されたアルピナは、人々を魅了する豊かなヒストリーを持っている。驚異的なパワーを持ちながらも、実用的な車でもあるということには、変わることのない一貫したフィロソフィーが存在しているのである。そのアルピナに心を奪われ、本国工場にB7S Turbo Coupeをフルレストアのため送り込んだ日本人オーナーがいた。

私たちが現在知っている"アルピナ"の名は、タイプライターをはじめとする事務機器メーカー、"アルピナ"に由来している。事務機器メーカーの経営者を父に持つ、ブルカルト・ボーフェンジーペン氏が、自動車好きが高じて、父の工場内の一画で車のチューンナップに着手したことが、現在のアルピナの起源である。ブルカルト氏が本格的なチューンナップの対象として選んだのは、ノイエクラッセと呼ばれるBMW1500であった。

アルピナ社のエントランスに飾られているこのパネルは、創立50周年記念の際に社員達が製作したコラージュである。左からアンドレアス氏、ブルカルト氏、フローリアン氏が並んでいる。


これのソレックス製シングル仕様キャブレターをウェバー製のダブルチョーク型ツイン仕様に変更するというキットの開発に成功。その開発にあたって重点を置いたのは、高い性能と使いやすさを両立させること、そして生産車と遜色のない高い信頼性を備えることであった。その甲斐あって、頼もしさを一切損なうことなく、低回転域から高速域までの柔軟性を有するスポーツセダンに進化することになった。
 
こうして完成した"アルピナ・キット"は、当時BMWの営業部長であったパウル・C・ハーネマン氏の目に留まることになり、BMWディーラーネットワークからもこのキットが販売されるようになった。その際に、キットを組み込んでもBMWのメーカー保証が継続されたという事実は、いかにブルカルト氏が早い段階からBMWに信頼されていたかを物語るエピソードであろう。この成功を機に1965年にはアルピナ・ブルカルト・ボーフェンジーペン合資会社を創業した。
 
それから半世紀以上の時を経ているが、今もなおブルカルト氏はアルピナ社の会長として経営に携わっており、現在の社長は長男のアンドレアス氏、副社長は次男のフローリアン氏というファミリービジネスで成り立っている。BMW社との協力関係はより強固なものになったものの、現在に至るまでアルピナ社はどこの傘下にも入ることなく、独立自立したメーカーとして存在し続けている。世界中に数あるメーカーの中で、アルピナ社のように創業時より変わらぬコンセプトを貫き続けられている例は他にないだろう。
 
アルピナの美徳は、 "Understatement"、つまり"控えめ"であること。エンジンはひたすらピークパワーの向上を求める、 サスペンションは硬く強化する、といったようなよくあるチューンナップのセオリーとは少し異なったものであり、エンジンは実用的な領域でのドライバビリティを高めることを重視したセッティング、サスペンションはしなやかにストロークを生かす方向性で、結果として乗り心地も向上している。一度、ステアリングを握ってみれば、その哲学は全身を通じて伝わってくる。また、一般的にチューンナップというとベース車を否定するところから始まることが多いが、アルピナには全くそれがない。

文:オクタン編集部 写真:オーナー提供 Words:Octane Japan Photography:Provided

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