「自分の城を建てたい」 夢をまたひとつ実現させた│ナカムラエンジニアリング物語第3章



日本ではまず他で見ることのできない工場を作ろう。そう決心したナカムラはまず近くの有名な高級住宅地、そう独立当初にチラシを配りまくった場所だ、の家々を見て回った。そうして気に入った建物があると呼び鈴を押し住人に建築家の名前を聞く。何軒か聞いて回ると、それらが全て同じ建築家の仕事だということが分かってきた。
 
とても高名な建築家だった。自分の好みの住宅はもちろん、以前、デザインが気に入って住んでいたマンションも同じ先生の作品であることが分かった。この先生しか自分の夢の実現を託せる人はいない。何事も決めると一途で行動の早いナカムラは、早速、その建築家に連絡を取ってみることにした。
 
ところが有名な先生だけあって、最初はけんもほろろに断られた。忙しかったのだ。それでもナカムラは諦めない。なんとか先生の興味を引こうと食い下がった。「工場一体型の住居を作りたい。そこでフェラーリを直します。どこにもない自宅兼ファクトリーにしたいんです!」フェラーリと聞いて先生が反応する。住居兼工場というコンセプトにも興味を示してくれた。「よろしい、引き受けましょう」。ナカムラの夢が一歩、前進した。
 
ほとんど芸術家を相手にしているようだった。床の色を決めるだけで1カ月以上を要した。構想を練り、打ち合わせを終えるまでに2年近くもかかったのだ。それだけじゃない。実際に作ってみて気に入らなければすぐに壊してやり直してしまう。そのこだわりがナカムラも好きだった。
 
平成18年の4月に着工した新社屋は、丸1年掛かりとなり、翌19年4月に竣工した。現在のナカムラエンジニアリングである。シンプルなコンクリート強化建築で、セキュリティにも大いにこだわり、また、住居や作業スペース以外の快適性も十分に考慮した。床はウッド張りで、掃除もモップ掛けのみと以前よりかなり楽になった。
 
それでもナカムラエンジニアリングでは毎日の掃除を欠かすことはなく、チリや埃のない、人が寝そべっても心地悪くない工場をキープし続けている。客の車を汚い場所には置きたくない。それはナカムラが独立してからずっと貫いてきたことだった。自分の車が汚い場所に置かれていることを想像するだけで嫌な気分になってしまうほど清潔好きな男なのだ。「ここで本当に車の整備しておられるのですか?」。そんなことを言う客が今でも絶えないという。確かにナカムラエンジニアリングの工場内には並の整備工場とは一線を画する雰囲気が漂っている。その中で作業するユニフォーム姿のスタッフたちもカッコいい。

跳ね馬でぎっしり埋まり始めた新しいファクトリー。リビングルームで整備するような環境を目指した。床はフローリングで寝そべっても汚れなさそうだ。ランボルギーニも見える。
 
新しく出来上がった工場には4台のリフトと車検用の検査ラインまであった。二階の踊り場からは整備の様子をくつろいで眺めることもできた。奈良にフェラーリ専門の綺麗な工場が建ったらしい。スーパーカー雑誌の広告を見た客で、あっという間に新しいファクトリーも埋め尽くされた。裏に借りていたレーヂを含め、常に20台前後の跳ね馬が入庫するようになった。

裏のガレージも含めると20台以上の入庫があったことも。顧客の大事な車を預かるのだからと、住居は隣に構えている。以前の工場でも中村は車たちと一緒に暮らしていた。

 
自分の城を築きあげて多くの客にも恵まれたナカムラは、少しばかり舞い上がってしまった。決して慢心したわけじゃない。どころかフェラーリのメンテナンスに対する姿勢は厳しくなりこそすれ、弱まることなどなかったのだ。
 
ナカムラのこだわりはいつしか客の想いを超え、フェラーリという車のあるべき姿を純粋に追い求める求道者のような精神へと昇華した。エンツォ・フェラーリの御霊に叶うようなコンディションをガムシャラに追いかけ始めたのだ。

今となってはため息もののショーケース。現在はディーノやF40など貴重なパーツが多く残されている。ナカムラエンジニアリングでレストアする価値はそこにもあると思う。

 
そこに落とし穴があった。フェラーリ乗りと言っても千差万別だ。常に完璧なコンディションを求めるユーザーばかりとは限らない。とりあえず動けば良い。そんな客も少なくなった。ナカムラはそれが絶対に許せなかった。(つづく)


株式会社ナカムラエンジニアリング
〒639-1103 
奈良県大和郡山市美濃庄町271番地の13
TEL. 0743-54-6400
https://www.nakamuraengineering.com/

文:西川 淳 写真:ナカムラエンジニアリング Words:Jun NISHIKAWA Images:NAKAMURA ENGINEERING

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