ポルシェらしいまま、未来に進化したEV タイカンに日本で試乗

写真:橋本玲、尾形和美

20世紀的な車好きは、筆者を含めて、エンジンロスがもたらす魅力の喪失について心配しすぎていたようだ。全てがテスラのようになってしまうと思っていた。ゼロ発進の加速は凄まじいけれども、それが終わってしまえば味も素っ気もない。それがEVだと思っていた。ところがどうだ。最近になって登場したプレミアムブランド、ジャガーやメルセデス、アウディのBEVには、エンジン音が失われたというだけで、その走りにはブランドらしさが十分に残されていたのだった。
 
ポルシェ初(といってもこのブランドの始祖がローナーポルシェというBEVであることをファンならばよく知っている)となるピュアな電気自動車、タイカンでも同じ、否、それ以上にブランドコンシャスな完成度をもって登場したのだから驚く。


 
メカニズム的には意外とコンサバだ。前後アクスルにひとつずつ、計2個の永久磁石同期モーターを置き、リアには二段変速機が備わった。インホイールモーターはバネ下重量が嵩むため不採用だ。床面に敷き詰められるバッテリーの容量は二種類用意され、いずれも800Vの電圧システムを採用したことが“ミソ”。全長4mの最低で2.14トンという重い4ドアサルーンを自由に動かすべく、アクティブサスペンションやリアステアリング、トルクベクタリングといったシャシー制御の採用にも抜かりはない。




 
ちなみに最高グレードのターボSで最高出力625ps(オーバーブースト時761ps)、最大トルク1050Nm(ローンチコントロール時)という破壊力で、0→100km/h加速は2.8秒である。

と書くと、「な〜んだ、テスラモデルSより遅いじゃん」という人が必ず出てくる。数字だけを比べればそうだ。けれどもその加速クォリティがまるで違った。タイカンターボSの最初の1秒あまりは凄まじい。発信する瞬間を“ため”と感じさせてしまうほど峻烈な加速で、まるで自由落下の平行移動版である(窓から飛び出て落下する漫画を思い出して欲しい)。加速中の安定感には微塵の不安もなく、低重心を生かしたスタビリティの高さは市販モデル随一である。さらに、数回試しても性能劣化が起こらない。“質”がまるで違うと言っていい。


 
とはいえタイカンは、そんな直線番長勝負のために生まれてきたわけではない。ポルシェをポルシェらしいまま未来につなげるべく誕生した。だからこそタイカンというポルシェのエンブレムそのものというべきネーミングを与えたのだ(意味は若き駿馬、エンブレムの中央にある)。それゆえ走り出した瞬間から街中、高速、ワインディングロードまで徹頭徹尾、それはポルシェであった。


 
街中ではまるでマカンかケイマンに乗っているかのように扱いやすい。パナメーラより小さいとはいえ、911よりは大きい。なのにそれをまるで感じさせない。乗り心地もポルシェらしくフラットな板フィールで、ポルシェ好きなら心地よく感じることだろう。もちろん静かであることは言うまでもない。ロードノイズが目立って聞こえるという人は、オプションのサウンドエフェクトを効かせれば良い。まるでテーマパークの未来ゾーンにでも迷い込んだそうな心地になる。




 
高速道路ではパナメーラのように快適だ。安定感はすこぶるつきで、なるほどこれなら最高速の260km/hまでストレスなく伸びていきそう。ちなみにタイカンは制動回生能力が高く、例えば200km/hからのブレーキングで蓄えられる電気エネルギーは4キロ走行分程度になるという。


 
ワインディングロードでは、信じてもらえないかもしれないけれど911である。否、ドラテクがシロウト+α程度の筆者の場合は、911ターボSよりも安心して攻め込めた。京都で高性能モデルをテストする際、いつも使うワインディングロードをタイカンターボSと911ターボSとで乗り比べてみたところ、夢中になれたのはタイカンの方だったのだ!


 
紛れもなくポルシェ。EVだからではなく、ポルシェの最新モデルだから楽しい。それが日本におけるタイカンのファーストインプレッションの結論である。



文:西川淳  写真:橋本玲、尾形和美

文:西川淳  写真:橋本玲、尾形和美

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