Mission Completed ! インディ500で2勝目の快挙を遂げた佐藤琢磨の「走る理由」と原点

Photography:Kazuki SAITO


 
世界中でパンデミックの影響が続く中、史上初となる無観客のインディ500で2勝目を獲得したという点においても、佐藤は今後長年にわたってファンの間で語り継がれることになるだろう。そのゴールの瞬間というものは、どうだったのだろうか。

「チェッカーフラッグを受けても歓声がなく、グランドスタンドも揺らめかない。とても静かでした。無線を通してチームは大騒ぎだったけど、静寂の中でゴールして、表彰式はもちろん関係者で盛り上がっていても、僕の目の前のグランドスタンドにほんとうなら10万人ぐらいの観客が見えていたはずで、声援や歓声がないという中では初優勝の時とまったく別物でしたね。でもそこには一緒に戦ってきた仲間がいて、それこそ毎日油まみれになってマシンを整備し、汗と涙でぐちゃぐちゃになっている彼らの笑顔を見ると、本当に嬉しかったです」



「パンデミックの最中で静かな表彰式にはなりましたが、テレビの向こう側で何万人もの人が見ていて、たくさんのメッセージというか、コメントをもらいました。今のこういう世界の状況の中で、明るいニュースをありがとうとか、元気が出ましたとか、そんなふうに言ってもらえるのはうれしかったですね。そこは自分も意図していたわけじゃないので、単純におめでとうって言われるよりも、そうか、そんなふうに受け取ってくれたんだと思うと、すごくうれしかったです。それはもう、ひとりの選手としてはこれ以上の喜びはないです。はい」
 
佐藤琢磨にとってインディカーを走らせることは、基本的にミニクーパーと同じぐらい「楽しい」ことだという。だがそこにはレーシング・ドライバーとして、一緒に戦うチームのためにも決して譲れない条件があり、楽しいのはトップを走っている時だけ。2位以下は苦痛でしかないと彼は言い切った。

「競技にしろ、普段の移動にしろどちらも走ることは大好きです。まったく別の世界なんですけど、車を運転する、道具を操るっていうところは同じですね。競技の世界に目を向けた時、そのマシンがもっている最高のパフォーマンスを引き出すことで得る達成感、誰よりも速く走りたいというのは選手の願望です。極めたいっていう気持ちがそこにあり、僕らのインディカーの世界では1万分の1秒を競うわけですけど、そこにモータースポーツの魅力がつまっているんです」

文、写真:斉藤和記 Words & Photography:Kazuki SAITO

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