心が落ち着く穏やかなエンジンサウンド│史上2番目に古い量産車アストン・マーティン

この記事は『いかにも速そうな「青い小型爆弾」│信じられないほど情熱的なサウンドのブガッティ』の続きです。

フランス・イタリア系のライバルとは対照的に、アストンマーティン・クローバーリーフはエレガントなドレスで全身を包み、総じてあか抜けた印象だ。助手席側のみだがドアまであって、上品に乗り込める。しかし、ランニングボードに載ってキャビンと同じ高さになったら、あとは飛び越えたほうが速い。操作系はすべてラウンドテールのボディワーク内部に収まり、贅沢にもウィンドスクリーンがあるのもありがたい。

 
ギアレバーが右にあって見慣れないパターンなのはブガッティと同じだが、こちらのほうが頭を使う。ブガッティとは反転しており、言い換えれば通常のシフトゲートを180°回転させた配置なのだ。その上、スロットルペダルが中央にあるので、つい先ほどブガッティで走行した短いルートをたどるだけだが、考えることは山ほどある。
 
それでもアストンには比較的一般的な挙動のブレーキがあるから、気苦労はひとつ少ない。ところが、こちらのほうが車が重く、ボンネット下のパワーは少ないことがすぐにはっきりした。実力を存分に引き出すには、より丁寧で辛抱強いアプローチが必要になりそうだ。
 
シフトアップの際は、ニュートラルで少し間を置くべきか、ダブルクラッチをするべきかだが、前オーナーのマーク・ドナヒューは前者を勧める。スロットルペダルを離してクラッチを切ると、ギアクラスターのほうがクランクシャフトより早めに回転速度を失うように感じられるからだ。いずれにしても、推進力がどんどん落ちる急な上り坂で、静かにシフトアップするのは至難の業だろう。私はルートの中でも平坦な部分で練習した。ステアリングはラインをシャープに調整するというより進行方向を大まかに定める印象だ。エンジンは圧縮比の低いくぐもった穏やかなサウンドで、心が落ち着く。


 
いよいよ上りにさしかかる。マークに励まされて1速から2速を探すと、ひどい歯ぎしりも衝突もせずに入り、エンストもしなかった。だがギアチェンジ後の今の回転速度では、たいしたトルクがない。このまま加速していけるのか、それともエンジンが力尽きるのか…?
 
いいぞ、ピックアップしてきた。徐々に速度を増しながら、タイトな最初のコーナーに近づく。充分な推進力があるので、それを生かしていくつかのコーナーを抜け、傾斜が弱まったところで3速に上げる。そしてトップギアへ。ギアチェンジをしくじって重層的な金属音を聞いたあとだけに、トランスミッションの静寂が至福のひと時に思える。
 
クローバーリーフは96年前と同じように、無事に完走した。おそらく私がギアボックスをもっと手荒に扱えば(新オーナーがコース脇で見守る前ではやりづらかった)、そしてブガッティがオリジナルのもっと控えめなチューンだったら、2台の登坂タイムはより対等だったのだろう。最初の対戦と同じように、アストンのタイムが上回った可能性もあるが、想像はしにくい。なにしろこの日はアストンマーティンの現役GTスタードライバーであるダレン・ターナーもクローバーリーフをドライブしたが、マークによると、今回に限っては私と大差なかったという。これが彼のレーシングカーだったら、あり得ない話だ。
 
しかし、そんなことは重要ではない。重要なのは、クローバーリーフが今も健在で、史上2番目に古いプロダクション・アストンが、1世紀近く前に輝きを放ったヒルクライムのコースを再び走ったことだ。そして、少なくとも私個人にとっては、初めてブガッティをドライブしたことも大きい。メーカーの黎明期のモデルからスタートできるとは、これ以上の幸運があるだろうか。

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