凍ったワインディングを駆け抜ける!軍用車 VWイルティスの乗り心地


 
ステアリングはノーアシストだが、発進してしまえば操舵しやすい。クワトロほどのダイレクト感はないものの、この頃の四輪駆動のなかではマシなほうといえよう。塗装されたままの床から生えるシフトノブは長いが、シフトチェンジはしっとりした感触だ。スピードメーター、燃料計、ステアリングホイールはVWビートルのものを流用している。エンジンは空冷ではなく、アウディやVWの水冷1.5リッター 直列4気筒エンジン(ゴルフやアウディ80が搭載していた)をベースに排気量を1714㏄まで拡大させたユニットだ。最高出力は74bhpで最高速度は80mphといわれているが、ここで試すはずもない。
 
乗り心地は硬めでややピッチングが強い。コーナリング中は大きめなボディロールを感じるが、ドライビングポジションのせいで強調されている雰囲気も。それでいながら長距離を楽に運転できそうな感触を得た。ブレーキも充分な性能を発揮するし、やや勾配が強い登坂路でもシフトダウンしてエンジンを回してやれば軽快に進む。特にターボチャージャーの必要性は感じない。


 
ドイツ軍はメルセデス・ベンツG クラスよりも安価なVWイルティスを制式採用することになり、1978年に生産を開始した。同年はアウディ・クワトロにとってもエポックメイクングだった。アウディ80にイルティスのハードウェアを組み込んだプロトタイプ"A1"が1977年に完成していた。そして、1978年にはターボチャージャー付き直列5気筒エンジン、改良されたトランスミッション、中空プロペラシャフトを採用したセンターディファレンシャルなどと、目覚ましく進化を遂げた。エンジニアたちはこのA1の真価をVW幹部たちに披露する場所として、トゥルラッハー・ヘーエを選んだ。そして最大勾配 23 %の凍結路面を、ノーマルタイヤで走破してみせたのだ。このプロトタイプの走りによって、VW幹部たちはクワトロの生産を正式に決定した。
 
直列5気筒エンジンの進化も目覚ましかった。1976年、アウディ100に搭載されたものはキャブレター仕様で最高出力136bhpだった。1979年にはターボチャージャーを装着したユニットが最高出力170bhpとなってアウディ200に搭載された。インタークーラー、ブースト圧の変更、エンジンマネージメントの改良を加え、半年後のジュネーヴ・モーターショーでお披露目されたクワトロは最高出力197bhpとなっていた。フィンランドのウィンターテストで出たアイディアから、ここまでの進化に3年しかかからなかったのだ。
 
トゥルラッハー・ヘーエは、クワトロにとって聖地と言っても過言ではない。エンジニアたちの机上の空論ではなく、目の前でクワトロのパフォーマンスを披露するという実践で幹部たちを説得した場所だ。ブーストがかかる2000rpm以上を維持しながら、凍ったワインディングを駆け抜けると一体感を味わえる。40年前にこうした走りを実現できていたというのは、伝説として語り継ぐべきことだと思う。

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