「ただの古い車」ではない│メルセデス・ベンツ 300SLガルウィングの魅力

RM sothebys

"ただの古い車"とは違うガルウィングの価値を、クラシックカー市場に詳しいデイブ・セルビーが解説する。

市場ウォッチャーは300SLガルウィングが大好きだ。その理由は単純で、第一に、付加価値の高い車にしては比較的数が多いから。第二に、ガルウィングはなんといってもガルウィングだから。第三に、現代に続くスーパーカーの最初の"設計図"といえる車だから。もちろん、異論はあるだろうが。

まだ100台を超えるフェラーリモデルが存在しなかった時代に、メルセデスのガルウィングは1400台も生産された。あれほどエキゾチックで、とてつもなく高価な車としては大変な数字だ。現存するのは約800台で、毎年およそ10%が市場に現れる。300SLの取引数は多いから、投資価値のあるクラシックカーの市場動向を示すバロメーターとして最適だ。価格は同等でも数が少ない他のモデルより、市場の動きがはっきり目に見えるので、売り手にも買い手にも好まれている。



それだけではない。ガルウィングのロードカーは、生産期間中に"大々的な"開発もアップグレードも行われなかったので、基本的にすべてが同じ仕様だ。300SLでも、ロードスターの場合はそうはいかない。リアサスペンションの改良と4輪ディスクブレーキへのアップグレードがあった。こうしたバリエーションは価格にも人気にも影響するが、ガルウィングにはそれがない。

ガルウィングの価値を左右するのは、コンディション、来歴、マッチングナンバー、オリジナリティ、走行距離の少なさといったところだ。その上、フェラーリより透明性がはるかに高い。メルセデス・ベンツのクラシック部門は、シャシーナンバーと所有履歴を詳細に調査・記録した『Register』をエリック・ル・モワンが出版する際にも手助けをした。つまり、調べようと思えばすぐ手の届くところに情報があるのだ。



では、ガルウィングから学べることは何だろうか。ミウラ、F40、ポルシェ959、マクラーレンF1など、ほぼすべてのスーパーカーと同様に、ガルウィングにも"中古車"時代があり、元の価格のほんの一部にまで価値が下がった。現代のスーパーカーを出来合いの手軽な投資対象と捉えている者は、この歴史を教訓にすべきかもしれない。

ガルウィングにも一筋縄ではいかない事情がある。生産終了後もシャシーフレームやエンジンなどのパーツをメルセデス・ベンツから入手できたため、オリジナルに見せかけたものや、完全な偽物まで存在するのだ。とはいえ前述の本もあるので、労を惜しまなければ買い手にも自力で知識を得る方法はある。おかげで市場アナリストも、一見よく似ているが実は異なる資産に関して、その30%の価格幅を理解したり、例外として除外すべきものを見極めたりすることができる。

ただ、ガルウィングはメルセデス市場の指標とはならない。メルセデス市場は、他のメーカーとは異なる独特の動きを示すからだ。いずれにしても、ガルウィングがバロメーターとして非常に使い勝手がいいのは間違いない。リアのスウィングアクスルには癖があるけれど、それは私の専門外だから深入りしないでおこう。

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO(Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Dave Selby Brochure image:Daimler AG

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