「世にも数奇な物語」を紡いだランボルギーニ・カウンタックLP400S

Photography:Yoshito YANAGIDA



車台番号#1121026 。意味するところはLP400Sで13番目、カウンタック通算でいえば163番目に生産された個体である。1978年6月28日にラインオフしたRosso/Senape のLP400Sシリーズ1は、形式的にドイツの有名なディーラーであるフーベルト・ハーネを通じて、ひとりの熱狂的なランボルギーニファンの元へと収められた。その人物の名はアーミン・ヨール。弟フレッドとともに兄弟でランボルギーニを愛するドイツの実業家だった。
 
#1121026そのものについて語るまえに、その背景にある有名な逸話を改めて紹介しておこう。ヨール兄弟とランボルギーニがいかに深い関係にあったかがしのばれるエピソードであるからだ。

アーミンが当初オーダーしていたカウンタックLP400Sは、実は#1121026ではなかった。#1121012(この内外装もまたRosso/Senape仕様)で、4月20日にラインオフし、翌月に開催されるモナコGP 観戦に向かうべく準備されていたのだった。
 
ところが突然の悲劇に見舞われた。誕生日を2日後に控えた5月11日、アーミンの親友でありオフィシャル・テストドライバーのヴァレンティーノ・バルボーニがテスト中にクラッシュさせてしまったのだ。


 
ガラガラのストレートを180km/h近くで走行中に脇からトラックが突然現れた。さしものヴァレンティノも避けきれずに左フェンダーをトラクターにヒットし畑へと転がりおちた。さらにLP400Sは横転、腹を空に向けた状態でエンジンから火を吹いてしまう。上開きのシザードアは横転時に致命的となりうる。幸いヴァレンティノの意識ははっきりしていた。ガソリンの臭いを嗅ぎ付けるやすぐさま消火器(携行を自ら義務づけていた)を横転した室内で噴霧し、その消火器を使って運転席側のサイドウィンドウを枠ごとたたき落とし、何とかはい出したのだという。

ヴァレンティノは奇跡的に無傷だった(トラックのドライバーも軽症だった)。けれどもアーミンのLP400Sは全損である。そこでランボルギーニは急いで代わりの個体を用意することにした。それが#1121026というわけである。
 

文:西川淳 写真:柳田由人 Words:Jun NISHIKAWA Photography:Yoshito YANAGIDA 取材協力:エーリストガレージ Thanks to:A-List Garage(TEL:03-3784-2211 )

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