ポルシェの「眠れる森の美女」│倉庫で静かに眠る500台以上の珍しいお宝たち

Photography: Matthew Howell


 
ポルシェでは、同社役員など、いわゆる"ファミリー"のために作られた特別なワン・オフも保管している。"フェリー"のお気に入りのハンティング・グリーンの964スピードスター。また、フェリーの姉でポルシェ・オーストリア代表であったルイーズ・ピエヒが個人所有していた初代911ターボも新車のような状態であった。これは1973年に彼女への誕生日プレゼントとして贈られたもの。"ターボ" のバッジこそ取り付けられなかったが、インテリアはシックなチェック柄で覆われ、お揃いのチェックのサイド・ストライプには、ポルシェのロゴが描かれている凝りようだ。
 
初めて見るモデルの中には、"もし市販されていたら"という興味をそそるようなプロトタイプがいくつかあった。美しい984ロードスターは今でも十分実用的に映る。924に変わるポルシェのエントリーモデルとして1980年代後半、開発に着手。格納可能なメタル製ハードトップと、356と同じ空冷水平対向4気筒エンジンを搭載する計画で、より時代に合ったスピードスターが完成するはずであった。開発時にはエンジンを、前、中または後ろ、いずれかへの搭載が検討されていたが、エントリーモデルとしては高価になり過ぎるという理由でプロジェクトは中断された。


 
熱狂的なポルシェファンにとって、更なる痛手は965の開発中止かもしれない。マットブラックに塗装されたプロトタイプは一見派手さはないものの、リアのエンジンフードの下には何と水冷のV8が収められている。965は「プアマンズ959」という位置付けで、ポルシェ社としては相当の台数が売れると踏んでいた。開発は1984年に始まったが、残念ながらこの頃のポルシェは方向性を見失い、その優柔不断さが搭載エンジンを迷わせて開発の足を引っ張る。

水冷水平対向6気筒ツインターボや、インディアナポリス用に開発したV8レーシング・エンジンのチューン版なども検討された。当たり前だが911の後部にV8を積むには、スペース的に相当な"力技" が必要だったことだろう。「965の課題はずばり冷却。ラジエーターやファンをそこら中に配置した」と聞かされたが、ポルシェのエンジニアたちならば何らかの工夫で解決したに違いない。だがポルシェはこの、通称"911インディアナポリス"を世に送り出す直前、こちらもコストを理由にプロジェクトを終える。V8が大好きなアメリカ人を虜にすることが間違いなかっただけに、残念ではある。


965よりもさらにスタイリッシュで、よりアメリカらしさを感じさせたのが"911国際速度耐久記録車"。オリジナル911のデザインは空力効率が良いはずもなく、空気抵抗係数は0.40だった。1989年に911 Carrera(964)がデビューしたころには風洞実験など緻密な計測により何とか0.32まで落とせたものの、他のライバル(特にアウディ)が空力デザインを謳ってきたため、ポルシェとしても負けるわけにはいかなかった。"速度記録車" はスムーズなフロント周りとフラッシュマウントされたヘッドライト、取り除かれたレインガター、そしてさらに大きく張り出したリアフェンダーなどにより、ボンネビルカーのような雰囲気があって実に格好が良い。空気抵抗係数も世界記録の0.27を達成した。ちなみに現在の最新911(991)のCd値は0.29まで極まっている。

編集翻訳:石丸 淳 Transcreation: Jun "Romano" ISHIMARU 原文翻訳:関根真理 Translation: Mari SEKINE Words: Delwyn Mallett Photography: Matthew Howell

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

RANKING人気の記事