時を超えた美しさ│二度目の日本上陸を果たしたジャガーEタイプ

Photography:Keishi OKUZUMI


 
このEタイプを見事に復活させたのは英国の「JLRクラシックワークス」である。2000年代に入ってからはメルセデス・ベンツやポルシェを皮切りに、フェラーリ・クラシケやランボルギーニ・ポロストリコなどの例を見れば分かるように、名だたるブランドが自前のヒストリックモデルセンターを構えるのが当たり前のようになっているが、JLRも2017年にコヴェントリー近郊のライトン・オン・ダンズモアに「クラシックワークス」をオープン、本格的にクラシックカーサービスに乗り出した。JLRクラシックワークスのファクトリーの総面積は1万4000㎡、54台分の作業ベイを備えたこの種のファクトリーとしては世界最大規模のクラシックセンターだ。


エンジンルーム内にはシャシープレートと並んで「JAGUAR CLASSIC」のサーティフィケートがリベット止めされている。これこそ純正レストアの証である。1962年3.8リッター Sr. 1。大きなフロントカウルを前ヒンジで開けると、彫刻のように美しい直列6気筒エンジンが現れる

もちろん、自動車趣味の本場である英国では、昔からヴィンテージおよびクラシックカーのスペシャリストショップが数多く存在する上に、各メーカーもオーナーズクラブやミュージアムなどと協力して、モデルの認定やレストアへのアドバイス、パーツ供給のサポートなどを行ってきた。ある程度の需要が集まれば、エンジンのシリンダーブロックなどの大物鋳造部品さえクラブが再生産するというぐらいだ。そのためにはオリジナルの図面の供給などについて、本家と協力する必要があるが、それを自前で顧客にワンストップで提供して、要望に応えようというのがプレミアムブランドの戦略である。その背景には無論、世界的にビンテージカーやクラシックカーの価値が上昇し、需要が増えているという流れもあるはずだ。豊かで華麗なるヘリテッジを持つブランドは、それを活かさない手はないのである。


エクステリアのボディカラー、ガンメタリックシルバーに合わせて、インテリアはバーガンディをオーダーした。センターコンソールの素材で一部オーダー通りでない部分があったそうだが、英国からスタッフが駆け付け、すべて正しく修繕を行った。シートやラゲージルームなどの仕上げはとてもていねいである。
 
もっとも、このEタイプの件を発案したのは、いわば新東洋三代目の片山勇志代表取締役社長兼CEOである。アストンマーティンの本拠地であるゲイドンでも修業した経験を持つ片山社長がクラシックワークスを知り、実際にファクトリーを見学して感銘を受けたのが発注のきっかけだったという。「かつて新東洋が輸入したジャガーそのものをレストアすることになったのは偶然です」と語るが、それこそめぐりあわせというものだろう。


ジャガーランドローバー横浜の代表取締役社長の片山勇志氏(左)と、父で名誉会長の片山正八氏。このEタイプは正八氏の父の代で販売された車である。三代に渡って大切に車を繋いでいる。

実はEタイプの他にランドローバー・シリーズⅠとレンジローバーのオリジナルモデルも一緒にオーダーしたのだという。その中で一番初めに到着したのがジャガーだったらしい。「レストアはとにかく時間がかかって、こちらの思うようにはいかないのが悩みどころです」というが、待つ甲斐があることは、この見事なEタイプを見るだけで明らかだ。


ジャガークラシックから納車時に同梱されていたレストア中の写真の数々。元のボディカラーはアイボリーに近いオフホワイトだったことがわかる。ベース車両の状態から修繕やパーツ交換の様子がすべて収められていて分かりやすい。

 
古い車を大切にする店は古くからの顧客を大事にしてくれる店ではないだろうか。とにかく新車の売り上げを優先し、釣った魚に餌は要らないとばかりに新規顧客の獲得だけに躍起になっている販売会社よりも、クラシックカーなどヒストリーのある車も分け隔てなく扱ってくれる店とこそ付き合いたいと思うのは私だけではないだろう。伝統、暖簾、ブランドなど、言い方は様々にあるかもしれないが、結局は車と顧客を大切にするということではないだろうか。

見事なレストアで仕上がったこのジャガーEタイプは、ジャガー・ランドローバー横浜が、永く付き合えるディーラーであることの象徴として、これから色々な舞台に登場するはずである。

文:高平高輝 写真:奥隅圭之 Words:Koki TAKAHIRA Photography:Keishi OKUZUMI 取材協力:ジャガー・ランドローバー横浜  Thanks to:Jaguar Land Rover Yokohama

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