007に登場するアストンマーティンに試乗!│あのボンドカー DB5のスタントカーは?

Aston Martin


 
その開発を指揮したチーフエンジニアのベン・ストロングが語る。「まずは映画製作会社にDB5スタントカーがどんな使われ方をするのかをヒアリングしました。つまり、撮影中のドライビングスタイルをリサーチしたのです。そのほか、同じく映画製作会社からは『何度撮影を行っても繰り返し同じ性能を発揮できる耐久性と再現性』『万一アクシデントが起きてもスタントドライバーを守る安全性』が必要であるとの指示を受けました」
 
こうした要望を加味して、ストロングはスタントカーの青写真を描いていった。ボディの基本構成には頑強なスペースフレームシャシーを用いることがまず決まる。これは"ポッドカー"を製作するためにも必要な措置だった。ポッドカーは、スタントカーの屋根の上に組まれたロールケージ内の運転席から車を遠隔操作できる車両のこと。ここで俳優が車内の運転席に腰掛け、これをスタントドライバーが屋根の上から操縦することで、俳優が演技に集中できる環境を作り出す。ただし、屋根の上にロールケージと運転席、そしてスタントドライバーを載せるため、車体には大きな荷重がかかる。これを支えるためにも頑丈なスペースフレームシャシーが必要とされたのだ。
 
DB5そっくりに製作されたボディパネルはすべてカーボンコンポジット製。撮影中に傷がついたときはすぐに交換できるように工夫されているそうだ。
 
サスペンションはコニが製作したルノー・メガーヌのラリークロス用パーツを流用することで現代的なシャシー性能を実現した。エンジンの詳細は最後まで明らかにされなかったが、ボンネットの形状から類推すれば直6もしくは直4が現実的な選択肢となる。となればBMWのストレート6が有力候補といえるだろう。ギアボックスはHパターンの4段マニュアルである。


 
インテリアに目を転ずれば、まずキャビン内にロールケージが張り巡らされていることに気づく。モータースポーツ用のバケットシートはカーボン製で5 点式フルハーネスを装備。ストロングによれば、このDB5スタントカーの安全性は最新のFIA規定に準拠しているらしい。シフトレバーの先にはサイドターン用の油圧ブレーキレバーが屹立し、ブレーキペダルやクラッチペダルがAPレーシングのモータースポーツ用とされているところも興味深い。
 
いっぽうで車外のカメラで捉えられる可能性が高いステアリングはオリジナルDB5とよく似たリムの細いウッド製が選ばれたほか、メーターパネルの形状もオリジナルDB5 そっくり。そこに組み込まれたスミス製のスピードメーターとタコメーターもクラシックなデザインではあるが、最近製作された製品であることは一目瞭然である。
 
フルハーネスを締め上げてから簡単なコクピットドリルを受けると、スタッフから「いつでもスタートしていいよ」と告げられる。いくらシルバーストン内のストウ・サーキットと呼ばれるクローズドコースが舞台とはいえ、なんともおおらかな運営だ。お言葉に甘え、教えてもらったとおりの手順でエンジンを始動するとクラッチを踏み、シフトレバーで1速を選んだ。
 
内張をほとんど持たないキャビンに響き渡るエンジン音は決して小さくない。この弾けるような音色からしてエンジンは自然吸気だろう。後にコースを走って感じたフィーリングからもストレート6のNAエンジンであると推測された。ただしボトムエンドから豊かなトルクを生み出してくれるため、ほとんどアイドリング回転数のままクラッチ操作だけでDB5スタントカーはスルリと動き出した。

文:大谷達也 写真:アストンマーティン Words:Tatsuya OTANI Images:Aston Martin

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