フェラーリの偉大なるスーパーカー!伝説に残るモデルを一気に試乗比較!

Photography:Matthew Howell



今やアイコンとなったF40だが、信じられないことに、発表された1987年当時は単なる便乗モデルと捉える批評家が多かった。その頃の投資ブームや、15万ポンドのポルシェ959への高い需要を見て、それにあやかったというのだ。フェラーリはこうした見方に対して、F40は純粋にパフォーマンスだけを求める顧客に応えて造られたのだと反論した。当時の広報担当者は、「将来をにらんだ実験でも、ポルシェが959を造ったからでもない。いずれにしてもこうなっていた」と述べている。
 
最後の主張は本当だろう。開発は既にかなりの部分が終わっていたからだ。エヴォルツィオーネを通して、ツインターボV8からさらにパワーを引き出す術や、必要な冷却を得る方法、空力面について、フェラーリのエンジニアはすっかり割り出していた。だからこそ、たった13カ月で市場に投入できたのである。
 
要するに、288GTOをスパルタンにして、さらにホットにしたのがF40だった。鋼管フレームのシャシーにケブラーとカーボンの複合素材を接合している点も共通する。その頃マクラーレンF1を構想していたゴードン・マレーが、F40はシャシーが旧式だとけなしたことは有名だ。また、非常に高価だったのも確かで、イギリスでは19万3000ポンドと、288GTOの倍以上だった。だが、それを上回る魅力がF40にはあった。


 
デザインを担当したレオナルド・フィオラヴァンティには、難しい課題がいくつも与えられた。そのひとつは、ダクトやベントの位置がすべて指定されていたことだ。それでもフィオラヴァンティは、低いノーズから背の高いリアウィングに至るまで、衝撃的で刺激的な形にまとめ上げた。もうひとつが数字だ。最高出力は478bhpでポルシェ959よりわずかに高い。最高速度も201mphで、やはりわずかに上回り、そして例の“初めて200mphを超えた量産車”だった。
 
F40には何度乗っても特別感がある。サイドの高い真っ赤なファブリックのシートに(できるだけ)優雅に腰を落とす。288 GTOより低い位置に座る分、ステアリングが斜め上方に離れて、カートに近づいた印象だ。キャビンはむき出しでレーシングカーさながら。ドアは中空で開閉用の紐を備え、ペダルには軽量穴が開いている。カーボン/ケブラー製のフットウェルは、継ぎ目に緑色の浴室用シーリング材をたっぷり付けて接合したように見える。
 
ところが、走りの印象は想像するほど硬くもなければ、ピーキーでも気難しくもない。スキンヘッドの男と知り合ってみたら、意外にも礼儀正しかったといった感じだ。ようやくF40のステアリングを握ったのに、それほどワイルドでなくて落胆したと話す同僚もいる。とはいえ、クラッシュしたF40の数や、肝を冷やしてすぐ手放すオーナーの数を考えれば、やはり必要なだけの“恐ろしさ”は備えているのだろう。
 
スターターボタンは、芝刈り機の燃料ラインの空気抜きポンプに似ている。ボタンを押すと、フラットプレーンV8が待ちきれないというようにバッバッバッと忙しく動き出した。重いスロットルペダルを少し踏んでみると、サウンドがふくらみ、鋭さが増す。ずっしりとしたペダルの重みがフィールと心地よくマッチしている。ノンアシストのステアリングやブレーキ、ギアシフトも、同じように重く、感触が豊かだ。
 
冷えた状態では2速はないと考えたほうがいい。2速が使えるようになる頃には、エンジンもほぼ準備が整っている。安全な場所を見つけてペダルを床まで踏み込んでみよう。F40は期待を裏切らない。288 GTOより獰猛で大音響で爆発的だ。踏み続けるには勇気を振り絞る必要がある。サスペンションも硬めだから(ガチガチというほどではないが)、特にバンプがあるとやっかいだ。その上リアタイヤが滑ったら…。

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo. ) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.)  原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:John Barker 

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