1925年創業のメッキ工場を訪れて│ヨーロッパにおける旧車の支え方

Photography: Tomonari SAKURAI

レストアを本格的に、フルレストアすると仮定する。オーナーが業者に任せたとして、そのオーナーが目にするのはそのガレージでの分解や組み立て、パーツの取り付けなど。

ボディもやるなら板金屋に、塗装屋などに送られていく。エンジンを見るとシリンダーを整えるのにボーリング業者に送ったり、シリンダーヘッドの水平を高めるためにその専門の業者に送られて加工されていく。それぞれのスペシャリストがいて、かつての姿へと蘇らせていくのだ。これが日本ならば、ほとんどを国内で行っていくだろう。ところがここヨーロッパではちょっと事情が違ってくる。

フルレストアしようという余裕のあるオーナーや、フルレストアするような車というのはやはり西欧に多いわけだ。専門のレストア業者はもちろん、顧客がいる国に多い。例えばスイス、ドイツ、フランスなど。しかし、それらは窓口になっているだけの場合が多い。それぞれの国内でも、もちろんスペシャリストはいるだろう。しかしコストが高くつく。そこで、近隣諸国の技術が信頼できて、コストの安いところに送られる。それがヨーロッパ式なのだ。


工場内。最大で2.5mまでの長さのモノを処理できる。

例えばドイツから送られてきたパーツを、ハンガリーの業者が作業する。あるパーツは塗装ではなくメッキ処理が必要となる。しかしハンガリーにはそのクオリティーに満足できる工場がなかったり、有毒な液体を使うメッキ業者は年々数を減らしてそれ自体なかったり。なので、別の国に依頼される。なんてことが普通に行われている。その一台の車のパーツはそれぞれ別の国に送られて作業が行われるという感じだ。


レストア中のオートバイのクランクケース。こういったパーツがあちこちに見られる。

 
今回、訪れたのは1925年創業のメッキ工場。その場所がウィーンの中心地にあるのにも驚く。現オーナーは3代目でおじいさんの代に築かれた工場。その当時はまだこの辺りもウィーンの中心地といってもそれほど住宅や商店もなかったのだという。そのため現在でもこの場で工場として営みを続けている。車専門と言うわけでなくあらゆる製品の表面処理を行っている。ネジのような小さいモノからオートバイのタンクや、バンパー、自転車のフレームなども受け付けている。


代々受け継がれてきた表面処理技術を継承し、中欧という位置から各国の依頼を引き受ける表面処理工場をしきる3代目社長クードルナさん。


お邪魔した時はアーティストの依頼で2mほどのブロンズ製の彫像にメッキ処理をしているところだった。細かいパーツも一点一点丁寧に均等な表面処理をしている。オーナーのクードルナさんの息子さんも一緒に働いて次世代に引き継がれていくのも決まっている。彼自身バイクが大好きで、特にハーレーにご執心のようだ。
 
国を超えて、それぞれのお国柄の得意技で旧車の世界を支えていけるのを知るとヨーロッパの底力というものを感じずにはいられないのだ。

写真&文:櫻井朋成 Photography&words: Tomonari SAKURAI

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