20周年を迎えたAudi TTを100周年のバウハウスとともに回顧する|伝統と革新が積み重なる瞬間へ

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無機質で四角いデザインがバウハウスではない

「1925年にデッサウに移転してきた当初から、地元の州新聞は批判的でした。バウハウスは教育課程としても、そのアウトプットという点でも、まったく新しいものだったゆえに攻撃の対象だったのです。ですからバウハウスの歴史は、つねに闘い、苦難の歴史だったといえます」と、バウハウス財団CEOにして、100周年の2019年に落成と相成ったバウハウス・ミュージアム・デッサウ館長をも務める、クラウディア・ペレン博士は説明する。


シドニーとシカゴで建築を修め、教授としても教える傍らバウハウス・ミュージアム・デッサウ館長も兼任するクラウディア・ペレン博士。


「じつは1919年のマニフェストでグロピウスは、バウハウスの根拠になるものとして、手工業・手工芸にはあまり触れていないんです。芸術がすべてのベースであり、それが拡がり敷衍されるべきもので、装飾芸術が人を豊かにするという。建築はそこに元々含まれるもので、例えば空間を自由に表現するためには建築の伝統様式に通じていなければならない、という考え方です」

過去のものに精通する教養を備えつつも、批判を恐れずにモダンな時代にふさわしい、実験的で新しいものを希求する態度が、そもそもバウハウス的なものだった。当然、それは’90年代半ばのTTをはじめ現在のアウディのデザインにも共通する。


英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アートで学び、ボンバルディアとホンダの後にアウディに入社したという、エクステリア・デザイナーのダニー・グラント氏。


1995年の東京モーターショー発表されたプロトタイプ「Audi TT Roadster」。その後デビューの市販モデルがいかに忠実だったかが分かる。

話は少し飛ぶが、帰路に立ち寄ったインゴルシュタットのアウディ本社にて、エクステリア・デザイナーのダニー・グラントは自身のデザイン観を次のように説明してくれた。

「初代Audi TT Coupé とRoadsterのデザインは、かなり大胆なものでしたが、美術的・芸術的というか、アートとテクニックの共生を感じさせるものだったと思います。ミケランジェロやダ・ヴィンチといったルネサンス時代から、デザインという言葉はまだ存在しなくても、自然の中から幾何学を通じて自由な造形をくみ取るという実践は、芸術家の役割でした。人体の輪郭や動きを観察し、機能とテクノロジーを見つめることで美しいデザインが生まれる。ですから我々は、自動車のスタイリストではなく、デザイナーであるという意識で仕事に向き合っています」



建築家が建築だけに、あるいはデザイナーがデザインだけにとらわれることなく、より広い領域の思想性に共感しつつも、自分の職域にとどまって実践を続ける意識は、バウハウスからアウディのデザインへ、おそらくは地続きに繋がっているものだ。


グローブを彷彿させるステッチは、後に市販版Audi Roadsterにも踏襲された。


プロトタイプ時の「TTS」ロゴ。現在の市販モデルのTTSではほぼ同じグラフィックながら細かくブラッシュアップされている。

クラウディア・ペレン博士は、こう続ける。「よく世間で、バウハウス的といわれるデザインは、四角く無機質な線で描かれた建築だと思われがちですが、それは外面的なところだけを拾った見方。グロピウスが校長時代のバウハウスには、そもそも建築という科目がなかったのです。創造性に制限をかけることなく、自由な世界を造形物として大胆に創っていくこと。まず自由な発想と芸術的アプローチでプロトタイプを創り上げ、コストを低く抑えて量産することで、人々の生活を豊かにしていくフロー。具体例として集合住宅でいえば、設計とモデルルーム化から施行や販売までの流れですね。そこに至る起点となる現代的な意味でのデザイナーという職業は、バウハウスの発明といえます」



いわばバウハウスとは、ドイツで興ったモダン建築のいち様式に限定されるものではなく、20世紀以降のアートと消費社会の関わり方に、一石を投じたカルチャー・ムーブメントだったのだ。フランス語圏のカナダ生まれで、英国のロイヤル・カレッジ・オブ・アートで学び、ドイツでデザイナーをしているダニー・グラント自身がこうもいう。 


デッサウ校内の劇場兼講堂。折畳み式のマルセル ブロイヤーのパイプチェアと、移動の動線と聴衆の視線を導くような照明に注目。

「バウハウスのことはデザイン学校の学生時代にひと通り習います。ですがアウディでは、バウハウス的な価値観やアプローチは外側から意識されているというより、日々の実践において内面化されたものと感じます。我々はアートとテクノロジーの共生を全面的に信じていますし、環境や社会とのシンビオーズ(有機的結合)によって、人々の生活がより豊かになることを描いているという感覚です」

オクタン日本版編集部

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