歴史と伝統に最新のモダニズムが備わる│ヘリテイジ、12気筒、そしてコンバーチブル

Photography:Kunihisa KOBAYASHI

マレック・ライヒマンの手による美しきオープンボディに715bhp、900Nmを発揮するV型12気筒5.2リッターツインターボを搭載したアストンマーティンDBSスーパーレッジェーラ・ヴォランテ。その最新フラッグシップコンバーチブルをさっそく連れ出してみた。

撮影日の朝、かつてル・マンで優勝したDBR9のボディカラーを彷彿とさせるようなフロステッドグラスブルーにタイタングレイの幌を組み合わせたDBS SuperleggeraVolante(DBS スーパーレッジェーラ・ヴォランテ)と初対面し、そのスタイリングの美しさに思わず固唾を呑んだ。

現副社長兼チーフクリエイティブオフィサーのマレック・ライヒマンが2005 年にデザイン部門のトップに就任して以降、アストンマーティンのデザインは王道である黄金比率に基づきながらも従来のクラシックなスタイルから、よりモダンでエレガント、かつアグレッシブに変容している。限定車のOne-77もボンドカーのDB10も彼の手によるものだ。そして女性的な凛とした佇まいをもつDB11を生み出し、それをもとに作られたのがフラッグシップのDBSだ。



「私たちは自動車のスタイリストではなく、デザインエンジニアなのです」とライヒマンは述べているが、大きく口を開けたフロントグリルも、ネコ科の肉食獣を思わせる筋肉質なリアフェンダーも、表層的なスタイリングではなくあくまでデザイン思考に基づくものだ。フロントフェンダー後方に見える"カーリキュー"と呼ばれるエレメントは、ホイールハウス内のエアを排出しボディサイドのエアフローを整えるもの。また布製のルーフに対応するため“エアロブレードII ”と呼ばれるリアエンドのダウンフォースを増強するシステムも備えている。かくしてDBSはフラッグシップにふさわしいマスキュリンな様相を呈している。
 
最新のフラッグシップコンバーチブルには、アストンマーティンのヘリテイジが凝縮されている。そもそもDBS は1967 年に初めて使用された高性能モデルの名称であり、スーパーレッジェーラは、イタリアのコーチビルダーであるトゥーリングが手がけた軽量バージョンのことだった。そして、ヴォランテは"空を飛ぶような"、"軽快な"といった意味をもつイタリア語で、1960年代にDB6のドロップヘッドクーペをそう名付けたことから、歴代のコンバーチブルモデルに受け継がれている。


 
アストンマーティン史上最速のコンバーチブルを謳うだけに、心臓部には今や世界にいくつとないV型12気筒 エンジンを搭載する。5.2リッターツインターボで、715 bhp 、900Nmという目もくらむようなパワーを発揮。トランスミッションにはZF 製の8段ATを組み合わせる。最高速度は340km/h 、0-100km/h 加速は3.6 秒とその性能はもはや公道でははかりしれない領域に達している。


 
ダッシュボード中央に配されたクリスタル製のスタートボタンを押せば、短いクランキングののちにあっというまにV12 エンジンが目覚める。アイドル時はさすがに少々音量は高くなるが、暖気を終えるとほどよくジェントルな音にかわった。アクセルペダルにそっと力をこめるとなんの抵抗もなく進みだす。ATはスムースに変速し、低速域でもぎくしゃくすることがない。これほどの大パワーであるにもかかわらず狙った速度にピタリと合わせやすい、アクセルペダルへの繊細な入力に車が正確に応えてくれるのだ。



21インチという大径タイヤを履いているが、乗り心地は思いのほか良好だ。オープンボディゆえのボディ剛性の劣化もほとんど感じることはない。路面からの大きな入力も新世代のプラットフォームが、余分な振動を抑えすぐに収束してくれる。

 
ソフトトップであることは、英国流の粋だ。ロールスもベントレーもまさしくそう。幌は8 層の断熱材と防音材を組み合わせた構造で、目をつぶっていればオープンとは気づかないほどに静粛性が高い。開閉に要する時間はオープン時に14 秒、クローズ時に16 秒でリモートキーを使用すれば、車から2m以内の距離であれば車外からも操作できる。


 
ドライブモードはパワートレインとサスペンションを個別に「GT 」、「スポーツ」、「スポーツ+」の3 段階で調整が可能だ。「スポーツ+」を選択するとネコがライオンに豹変する。エンジンとトランスミッションのレスポンスが一気に高まり、エグゾーストが咆哮を上げる。木々が色づき始めたワインディングを駆け抜けると、得も言われぬ高揚感に包まれた。
 
ロイヤルワラント(英国王室御用達)としての歴史や伝統に裏打ちされた高い品質と、最新のモダニズムを兼ね備えたアストンマーティンというブランドを、自分の日々の暮らしに取り込むことができたならば、人生はどれほど豊かなものになるのだろうか。



ASTON MARTIN「DBS Superleggera Volante 」
ボディサイズ:全長4715×全幅2145×全高1295 mm
エンジン:V 型12気筒DOHCツインターボ
排気量:5204 cc 
最高出力:533 kW(715 bhp )/ 6500 rpm 
最大トルク:900 Nm/ 1800 – 5000 rpm 
トランスミッション:8段AT 
サスペンション形式:前ダブルウイッシュボーン後マルチリンク 
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク(カーボンセミラック) 
最高速度:340 km/h 0 –100 km/h 加速:3 . 6秒
車両本体価格:3796万185円(税込)

文:藤野太一 写真:小林邦寿 Words:Taichi FUJINO 

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