再現された輝かしいシーン 95年前のアストン・クリントン

Aston martin

1914年にライオネル・マーティンとロバート・バンフォードにより設立された小さな会社は、アストン・クリントンと呼ばれるヒルクライム競技で成功を収めたことからアストンマーティンのブランドを名乗るようになり、その後もモータースポーツやスポーツカーの歴史に輝かしい足跡を残している。その創世記を再現した奇跡が、今起こったのだ。

2019年10月21日、アストン・ヒル、ハルトン。「クローバーリーフ」 という愛称で知られるマシン「XR1981」が、アストン・ヒルで開催されたヒルクライムのスタート地点のついたのは95年前のことであった。この競技には1923年後半に製造された8台が参加。中でも2台のブガッティ・ブレシアと、3台のアストンマーティンが激しく競い合った。結果はアストンマーティン創設者であるライオネル・マーティンが所有するアストンが優勝トロフィーを獲得。クローバーリーフはブガッティを相手に健闘して2位に入賞。また残りのアストンマーティンも3位を飾り、表彰台を独占したのだ。


 
アストン・ヒルはアストンマーティンのファンならば、心躍る場所であることは間違いない。ライオネル・マーティンが自身でデザインしたマシンをまずは走らせる場所であったことなど、アストン・ヒルは偉大な英国ブランドとしてのスポーツパフォーマンス精神を確立した聖地であったことは間違いない。
 
この4気筒1486ccサイドバルブ・エンジンを搭載した1923年製クローバーリーフは、いわゆるツアラーモデルである。ちなみに最古のストリート・アストンマーティンであるこの車は、前後2席とリア中央席が三葉のクローバーを形成していることから「クローバーリーフ」と呼ばれるようになった。前輪にブレーキを組み込み、エンジンの最高出力38hpは、4段変速トランスミッションを介して後輪に導かれる。最高速度は115km/hを超えた。


直列4 気筒1486 c c サイドバルブ・エンジンを搭載する。世界でも有数の会員組織で、イギリスで最も古い自動車組織である王立自動車クラブ(Royal Automobile Club )に展示されるレベルまで美しくレストアされている。
 
メーカーとしての黎明期におけるコンペティティブなイベントを記念して、このクローバーリーフは約1世紀ぶりにアストン・ヒルに戻ってきた。アストンマーティン・レーシングで3回のル・マン優勝経験者であるダレン・ターナーがドライバーとなり、ブガッティ・ブレシアを僅差で抜き去った、ほぼ1世紀前の出来事を忠実に再現したのだ。そのため、このマシンは著名な戦前アストンマーティンのスペシャルショップ、エキュリー・ベルテリによって入念に準備が続けられた。
 
           インパネは至ってシンプルなものだ。エンジンに合わせて点火時期を調節するレバーが、ステアリングホイール中央に備わる。 

アストンマーティン・ワークスのポール・スピアーズ会長はこの記念的行事にあたり、こう宣言した。「アストンマーティンほど、多くの象徴的なランドマークを持っている幸運なブランドはない。このクローバーリーフは、正にブランディング形成期から、デザインおよびイノベーションにおいて最高レベルの戦いをしてきた私たちの指針を示す完璧な例です」
 
1923年製 オーナーの林 幸泰氏は、アストン・ヒルにおいてこの車の歴史に敬意を払い、95 年を記念して当時のレースシーンを忠実に再現した。それは映像でも表現され、まさに視聴者はタイムスリップしたかのような懐古心を覚えるに違いない。現在このクローバーリーフは、英国ゲイドンのアストンマーティン本社に展示されている。


オーナーの林 幸泰氏と奥様。アストンマーティンのOrigin(発祥の地)と記された石碑の前で。

アストンマーティンのファンのみならず、英国車ファンすべてにとって、この車の来日が待ち遠しいと思われているはずだ。


栄誉ある「ロイヤル自動車クラブ・コンコース」を受賞
1923年後半に製造されたシャーシNo. 1926は、現存する最古のアストンマーティンの一台である。「バンフォードとマーティン」がたずさわったアストンマーティンは全部で57台しか製造されなかった。そのうち何らかの形で世界中に現存しているのは16 台に満たない。優勝したライオネル・マーティンのクローバーリーフは、1930年にクラッシュして現存していない。このマシンは同型であり、1924年のヒルクライムで2位になったモデルである。
 
XR 1981は、1960年代末まで様々なレースに出走していた。1969年にはシルバーストーンで開催された権威あるセント・ジョン・ホースフォール・トロフィーレースで優勝したが、その後40年近く使用されないまま、ガレージに仕舞い込まれてしまった。そして5年間のレストア期間を経て現在の状態に戻ったのだ。
 
2014年、マット・ベイカーがBBCの番組「Country file」で、このクローバーリーフをアストン・ヒルに90年ぶりに押し上げた。また2016年ウィンザー城エレガンス・コンコースで行われた 「ロイヤル自動車クラブ・コンコース」で、XR 1981は、同クラブの会長であるマイケル・オブ・ケント王子によって、英国の最高の車を表彰するトロフィーを受賞している。

文:オクタン日本版編集部 写真:アストンマーティン、大里研究所 Words:Octane Japan Photography:Aston Martin, Osato Research Institute

無料メールマガジン登録   人気の記事や編集部おすすめ記事を配信         
登録することで、会員規約に同意したものとみなされます。

RECOMMENDEDおすすめの記事