自動車界のパイオニアであり続けたキャデラック│革新の歴史を辿る

RM Sotheby's

その社名は、デトロイトを開拓したフランス人探検家の名に由来するキャデラックはその名の通り、常に自動車界のパイオニアであり続けた。アメリカを代表する高級車の一つがキャデラック。1903年創業と長い歴史を持つが、常に革新的な技術を導入して自動車界の最先端を走り続けている。
 
中でも、1912年に採用した電気式セルフ・スターターと1912年のV型8気筒、および1930年のV型12気筒/V型16気筒エンジンのデビューはキャデラック・ブランドのハイライトだ。第二次世界大戦後はデザイナー、ハーリー・アールによるテール・フィン全盛の時代を主導し、世界的にスタイリングの面でも大きな影響を与えた。
 
1966年には世界最大排気量のFWDモデルとなるフリートウッド・エルドラドがデビュー。その後セヴィルやアランテなどのように大幅に小型化されるが、キャデラックの強いイメージは巧みに受け継がれていた。リーマン・ショックなどで大きな経営的損害を被ったが、アメリカ経済の復興と共に、劇的な回復を見せているブランドだ。

自動車メーカーの歴史に詳しいモータージャーナリスト 故・川上完氏が、2013年発行の『オクタン日本版Vol.4』に寄稿したキャデラックのモデル紹介記事を振り返りながら、80年代までのモデルを見てみよう。


1912 CADILLAC MODEL 30

電気部品メーカーDELCOに在籍した技術者、チャールス・ケタリング(Charles Kettering)により開発された電気式セルフ・スターターを備えた最初のモデル。排気量3706ccの直列気筒サイド・バルブ・エンジン(出力33馬力)を装備し、3速マニュアル・トランスミッションやシャフトドライブ方式を採用していた。工作精度の高さなどを理由に、工業技術のノーベル賞と言えるディヴォア・トロフィーを獲得。キャンバス製ルーフを持つフェートン型ボディは未だキャデラック社の自製となっていた。


1931 CADILLAC V16

1929年10月24日、アメリカのウォール街に始まった大恐慌を乗り切るために、大排気量の多気筒エンジンを搭載する未曾有の高級車を計画する。それが1930年に発表された排気量741ccのV型16気筒OHV(出力165HP/6500rpm)と601ccのV型12気筒OHV(出力135HP/3400rpm)エンジン。ボディは当時数多く存在した大小のコーチワーカーがオーナーの好みに応じて製作した贅をつくした特別オプションが組み合わされた。完成車の価格は5350~1万5000ドル以上と言われた。


1941 CADILLAC Sixty Two

第二次世界大戦に向けての爆撃機や戦闘機、戦車などの生産を経て、戦後は年10月には戦前型そのままの62(sixty-two)の生産を再開。戦後初の新型車は1949年に新登場のシリーズ62。リア・フェンダー後端部が大きく盛り上がり、テール・フィンの前兆を感じさせる。このスタイルは、戦時中に活躍したロッキードP38からインスパイアされたものと言う。エンジンは新設計の542ccのV型8気筒OHV(出力160HP/3800rpm)となった。初年度だけで10万台近くを販売している。


1949 CADILLAC Coupe De Ville

1950年代にアメリカ車の多くがこぞって採用するハードトップ・スタイルを市販車に試みた最初の例が、1949年に登場したシリーズ62クーペ・ド・ヴィル(Coupe De Ville)。伝統的な4輪馬車のスタイルを採り入れている。正式なスタイルは、運転席はオープンで後部座席をハードトップとして居住性を高めたもの。これを巧みにアレンジしてスポーティーな中にもフォーマルな雰囲気を盛り込むことに成功した。この年、キャデラックは創業以来の生産100万台を達成。


1959 CADILLAC Eldorado Biarritz Convertible

1955年に最初のモデルが登場してから4年目、テール・フィンの頂上は年々高くなり、1959年に絶頂期を迎える。その代表格がエルドラド・シリーズ。ジェット戦闘機の尾翼を想わせるフィンは鋭角的なものとなり世界を驚かせた。排気量6396ccのV型8気筒OHVエンジンは、10.25の圧縮比と4バレル・キャブレター2基を装備、出力を345HP/4800rpmに向上していた。コンバーチブルの価格は7400ドルに達したが、1959年だけでキャデラックは各型併せて14万2272台を生産した。


1980 CADILLAC Seville Elegante

コルベット・スティングレイやビュイック・リビエラなどのスタイリング・デザインで知られるビル・ミッチェルの手による斬新なスタイリングが特徴。ミッチェルは英国製高級車に見られるレザー・エッジと呼ばれるフォーマルなスタイルの再現を意図していた。フロント部分とのバランスは良いとは言えないが、独特の美しさがある。また、セヴィルは、アメリカ製高級車として初めて4輪独立懸架、4輪ディスク・ブレーキ、電子制御車高調整機構などを標準装備としたモデル。今日ではコレクターズ・アイテムでもある。


1987 CADILLAC Allante

急激に進められたアメリカ車のダウン・サイジングの結果として、小型高級車を標榜して1986年9月にデビューしたモデル。スタイリング・デザインとボディ生産をイタリアのカロッツェリア、ピニンファリーナが担当。イタリアの航空会社、アリタリアのジャンボ機を使い半完成のボディをデトロイトへ空輸、最終組み立てを行った。キャディラックでは「世界で最も長い組み立てライン」と謳っていた。排気量4087ccのV型8気筒OHV(出力172HP/4100rpm)エンジンを装備。前輪駆動。価格は5万5000ドル。



文:川上 完 Words:Kan KAWAKAMI

文:川上 完 Words:Kan KAWAKAMI

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