ベントレーを所有するということ 〜実体験による購入の際の注意点〜

Octane Japan

これは「購入の際の注意点」といっても購入ノウハウの類ではない。ベントレーを購入するということは、ベントレーを所有するということであり、所有するからにはその車に相応しい心構えが必要だ、という話である。では、どんな心構えが必要なのだろうか。

動車の評価というものはなかなか衆議一決というようなわけにはいかない。だからこそ古今絶えもせず個性的な車が生まれ続けるのだろうが。
 
ただし、めずらしい例外として、ベントレーRタイプ・コンティネンタルを挙げることができる。この車は、専門家といわれる方々をして衆議一決、戦後最も美しい、最も素晴らしいベントレーであるとの賞賛を惜しませない。
 
1930年代初頭、躍進甚だしかったベントレーと、19世紀末からの歴史を持ち、航空機や英国を代表する速度記録車のエンジン製作やシルバーゴースト・クラスの高級車の生産まで行っていたネイピアとの合併を恐れたロールス・ロイスが、偽名を使ってベントレーを買収したのはロールス・ロイス最大の汚点として今も語られる。
 
首尾よく買収を果たしたロールス・ロイスは、ベントレーが前年に発表したばかりのフラッグシップ、ロールス・ロイスの直接のライバル足り得た8リッターの製造を中止し、すでに100台ほどが完成していたにもかかわらず工場に残っていたパーツ類をすべて廃棄してしまう。買収が成るまで、RRの存在にまったく気づいていなかったW.O.ベントレーも、自身で使用していた8リッターを召し上げられ、また契約で会社に残ることを強制されたが、その実、仕事は何もなく飼い殺し状態であったという。W.O. は期が空けた1935年には請われてラゴンダに移籍、その年いきなりル・マンでの勝利を果たす。
 
W.O.が抜けたベントレーは、ロールス・ロイスよりは多少スポーティな味付けではあったが、事実上ロールス・ロイスのバッジエンジニアリングに甘んじ、戦後もそれは踏襲されていたが、1952年に突如としてRタイプ・コンティネンタルという独自のモデルを発表する。



ホイールベースこそ、ベースとなったRタイプと同じ120インチだが、圧縮比を高めたエンジン、そして何よりセンセーショナルなH.J.マリナーによる美しく軽量な2ドアファストバッククーペボディの空力特性により、最高速185km/hを誇った。まさしく当時の英国人のいうコンティネンタル・ツアーのための車であった。コンティネンタルは1962年にロールス・ロイスにもコンティネンタル・フライング・スパーが登場するまで、ロールス・ロイス時代唯一の純粋にベントレーのみのモデルだった。

 
Rタイプ・コンティネンタルの大きな魅力のひとつは、開発者のアイヴァン・エヴァーデンのアイデアを大きく取り入れたという、その流麗なボディスタイリングに他ならないが、実はそれ以前にそれを示唆するようなスペシャルが存在した。1948年に、フランスのファセル・メタロンがピニン・ファリーナのデザインでマークⅥに架装したクレスタおよびクレスタⅡは、Rタイプ・コンティネンタルにデザイン上で大きな影響を与えたとする歴史家は多い。さらに1938年にギリシャ人レーシングドライバーのアンドレ・エンビリコスの注文で、4 1/4のシャシー上にワンオフで作られたエンビリコス・ベントレーが直接の素であるとする意見が多い。

文:小石原 耕作 Words: Kosaku KOISHIHARA (Ursus Page Makers)

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