アルピナがディーゼルを 再定義する│初の6気筒ディーゼルを積むD3ビターボ試乗

BMWを素材とするアルピナが目指す車作りは、静的・動的の両面における高いラグジュアリー性。強力なパワートレーンを自然に穏やかに扱わせる味付けを、3シリーズベースで初の6気筒ディーゼルを積むD3ビターボで試した。

BMWとアルピナ。この両社の関係は半世紀以上前の1960年代前半にまで遡る。アルピナの創業者であるブルカルト・ボーフェンジーペンは、ノイエクラッセの愛称でお馴染みのBMW1500用にボルトオン装着するウェバーキャブレターのチューニングキットを開発。1500 の発売からわずか2年後に大きくスープアップした1800へとエンジンを刷新することになったBMW側が、既納客の不満解消策としてこのキットに着目し、純正同等のワランティを付与したことが関係の始まりと言われている。


 
この過去の義理だけをもって両社の関係はにわかに測り難い感もあるが、ともあれ年間約1700台というアルピナの自動車メーカーとしてのビジネスに、BMWが特別な配慮を示し続けているのは確かだ。
 
BMWを素材とするアルピナが目指す車作りは、静的・動的の両面における高いラグジュアリー性だ。レース活動における彼らの活躍をご存知の方も多いと思うが、そこで得られたスポーティネスを土台として、いかに上質で快適な移動空間を供するかに、目指すところがある。Mブランドとは一線を画するこのコンセプトがゆえ、彼らはディーゼルユニットの特性に目をつけるのも早かったのかもしれない。


 
アルピナ初のディーゼルモデルとなるD10ビターボが登場したのは99 年のこと。E39系5シリーズをベースに搭載されるのはツインターボ化された3リッター直列6気筒ディーゼルで、その出力は245ps、最大トルクは500Nmとなる。中低回転域からのリッチなトルクを活かして0-100km/h加速は6.8秒と、当時のサルーンとしては充分スポーティな数値をマークした。



この常用域の力強さや巡航回転数の低さ、ガソリンモデルでは叶えられない足の長さなどの長所は、アルピナの志すところと相性が良かったのだろう。後にドイツ御三家はディーゼルのハイパフォーマンス化を推し進めることになるが、そのきっかけのひとつとしてこの車の存在があったとしても全くおかしくはない。

 
アルピナが日本においてディーゼルモデルを導入したのは09年。E90 系3 シリーズをベースとしたD3ビターボになる。前述のような特徴は日本のユーザーにも望まれるところであり、販売的にも日本市場を支える代表的銘柄へと成長。その人気は14年に上陸したこのF30系D3ビターボにも受け継がれた。ちなみにこの年、日本でのアルピナの販売台数は年間生産台数の2割を超える428台と猛烈な記録を残している。


 
D3ビターボは3シリーズベースとしては初の6気筒ディーゼルを搭載する。N57 系3リッターを基にツインターボ化を始めマネジメント等にも手が加わり、その出力は350ps/700Nmともはやディーゼル離れしており、D セグメントのそれとも思えない。が、この強力なパワートレーンをあくまで自然に穏やかに扱わせるのがアルピナの味付けの妙だ。

必要な加速はアクセルの加減ひとつで即座に得られ、6気筒の音振環境も相まってその加速感も極めて滑らかだ。もちろん意図的な全開では後輪を路面が蹴り放つほどの勇ましさもみせるが、700Nmにも及ぶトルクさえ自慢の足回りがしんなりと吸収してくれる。眼前の進路に赤絨毯でも敷かれたかのようなこの乗り味を知ってしまえば他には戻れない。そんなアルピナライドは今も鮮やかに健在している。


そしていつまでも走り続けたくなる誘惑に、綺麗に調律されたこのディーゼルユニットは低燃費をも従えて応えてくれる。ベースモデルがG20系に移行した今、D3ビターボのフルモデルチェンジも時間の問題だろう。が、この期に及んでなお、このモデルの他銘柄とは一線を画する圧倒的な上質感を携えていることは素直に凄いと思う。



40年に渡り、日本にアルピナの"哲学”を伝え続けるニコル1979年に日本における第1号車となるブラックのBMW アルピナ B7ターボの販売以来、40年に渡って日本でアルピナを手がけているのが日本総代理店のニコル・オートモビルズ。アルピナの哲学を日本に、日本ユーザーの意見を本国へと伝え続け、40年間で5300台以上のアルピナモデルを販売してきた。写真はその第1号車とニコルグループCEOのC.H. ニコ・ローレケ氏。この第1号車は数年後にニコルに戻り、それ以来、大切に当時の状態で保管されているそう。アルピナでは年間1700台前後を生産、日本には200~300台ほど(2018年度は253台)が輸入されている。


世田谷ショールームに展示されていた、アルピナが手掛けたBMW3.0CSL のライト・ウェイト・バージョンとなる3.0CSL。ニキ・ラウダがステアリングを握り、欧州ツーリングカー選手権で優勝したモデルでもある。

BMW ALPINA
D 3 BITURBO LIMOUSINE
ボディサイズ:4645×1810×1445 ㎜
ホイールベース:2810 mm
車重:1660㎏ 駆動方式:後輪駆動 変速機:8段AT
エンジン:直列6気筒 D OHC ツインターボ
排気量:2992 cc 最高出力:350 ps/ 4000 rpm
最大トルク:700 Nm/ 1500〜3000 rpm
本体価格:1031万円

文:渡辺敏史 写真:尾形和美、ニコル・オートモビルズ Words:Toshifumi WATANABE Photography:Kazumi OGATA , NICOLE AUTOMOBILES

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