初代アウディTTロードスターは、ポルシェ356スピードスターのオマージュだった?

8月から始まる巡回企画展「開校100年 きたれ、バウハウス —造形教育の基礎— 」のオープニングトークイベントが7月29日、東京世田谷の二子玉川ライズ iTSCOM STUDIO & HALLで行われた。

登壇者はデザイン評論家で武蔵野美術大学名誉教授、英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート名誉フェローの柏木 博(かしわぎ ひろし)氏。そしてSWdesign代表で元Audi Designデザイナーの和田 智(わだ さとし)氏である。

トークセッションに先立って、アウディジャパン社長のフィリップ・ノアック氏から「今年はバウハウス100周年であり、また初代アウディTT日本導入20周年という記念すべき年になります。アウディはデザインをとても重視しており、今回バウハウスとコラボレーションをしながら、デザインについてのトークショーを行えることを楽しみにしています」との挨拶があった。



さて、バウハウス(ドイツ語でBauhaus)についてはご存知の方も多いだろう。それは1919年、ヴァイマール共和政期ドイツに設立されたデザインや美術、建築に関する総合的な学校のことであり、またその根底に流れる合理主義的・機能主義的な芸術一般を表す場合もある。バウハウスではワシリー・カンディンスキーやパウル・クレーなど、時代を代表する優れた芸術家が指導者として教育にあたっていた。

学生が最初に受ける基礎教育で教師たちが試みた授業は実にユニークで、現代の造形教育の土台となっているという。バウハウスから優れたデザイナーや建築家が育ち、また時代を切り開くプロダクツやグラフィックが生まれた。ただしバウハウスが学校として存在したのは、ナチスによって1933年に閉校されるまでのわずか14年間のみ。それでもバウハウスの活動やプロダクツは現代デザインに対して大きな影響を与えている。ちなみにバウハウスとはドイツ語で「建築の家」を意味する言葉だ。

セッションはまず武蔵野美術大学名誉教授の柏木先生より。バウハウスの歴史や作品、活動内容などが多くのスライドと共に紹介される。続いてデザイナーの和田智さんのターンとなる。和田氏は武蔵野美術大学在学中の研究テーマはバウハウスだったという。卒業後日産自動車に入社して革新的なデザインだった初代セフィーロを手掛ける。1989年に英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アートに社命で留学。後1998年にアウディに移籍して多くのコンセプトカーをデザイン。Audi A6、Audi Q7、Audi A5のエクステリアデザインを担当。2009年に独立するまでエキスパートシニアデザイナー兼クリエイティブマネージャーを務めている。

和田氏のセッションは「デザインと継承」「デザインとひと」をテーマに展開された。そして多くのデザインが目新しさを求めているのに対して、本当に良いものはピュアでありミニマルであるべきという持論を、様々な例を用いてユニークな話がなされた。ところでモノづくりについて、発表よりだいぶ時間が経ってから「実は…」といった話が表出することが多い。



彼がアウディに入社した時にはすでに初代TTは完成していたという。クーペが先に、後にロードスターが発表されているが、実際の開発はロードスターのほうがオリジナルであった。アウディTTのデザインベースはDKWモンツァであるという意見が専らであるが、和田氏の論理的な推測では、実は「1948年ポルシェ356スピードスターが原型であったはず」だという。確かにそれは、当時TTのデザイン責任者を務めたペーター・シュライヤーの足跡をかんがみても頷ける部分が多い。

「良いデザインは継承されるべき」という和田氏の考えに則り、彼が考案したアウディの大きなシングルフレームグリルも、アウディの前身であるアウトウニオンのレーシングカーをデザインモチーフにしたのだ。「デザインは、次の世の中を良くするもの」であるべき、と和田氏。だから結局「デザインは人」なのだという。

普遍的なデザインについて今一度考えてみるには、実に好適な企画展である。

巡回展については、以下参照。
新潟市美術館
2019年8月3日(土) ~ 9月23日(月)
新潟県新潟市中央区西大畑町 5191-9

西宮市大谷記念美術館
2019年10月12日(土) ~ 12月1日(日)
兵庫県西宮市中浜町 4-38

高松市美術館
2020年2月8日(土) ~ 3月22日(日)
香川県高松市紺屋町 10-4

静岡県立美術館
2020 年4月11日(土)~ 5月31日(日)

静岡市駿河区谷田 53-2

東京ステーションギャラリー
2020年7月17日(金) ~ 9月6日(日)
東京都千代田区丸の内 1-9-1  

展覧会概要
展覧会名  開校100年 きたれ、バウハウス造形教育の基礎
主 催   各開催館、バウハウス100周年委員会
東日本後援 ドイツ連邦共和国大使館、スイス大使館、ハンガリー大使館、日本建築学会
西日本後援 ドイツ連邦共和国総領事館、スイス大使館、ハンガリー大使館、日本建築学会
特別協力  ミサワホーム株式会社
協 賛   アウディ ジャパン株式会社、株式会社インターオフィス

オクタン日本版編集部

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