『ミニミニ大作戦』に登場したランボルギーニ・ミウラ│本物と特定する方法は?

Photography Paul Harmer

映画史に残る名シーンに登場したあと行方不明となっていたランボルギーニ・ミウラ。その素性が明らかになるまでを追った。

イタリアン・アルプスを駆け抜けるオレンジのランボルギーニ。くわえタバコで巧みなステアリングさばきを見せる白髪まじりの男。車はトンネルの奥に消えたあと爆発する。マフィアの巨大なブルドーザーと衝突したのだ。大破したミウラは谷底へ投げ捨てられ、マフィアのボスが神妙な面持ちで花輪を投げる…。1969年公開の映画『The Italian Job』(邦題『ミニミニ大作戦』)のオープニングシーンだ。非常に有名なシーンにもかかわらず、劇中車は最近まで特定されていなかった。



撮影には2台のミウラが使われた。1台は中東で事故を起こしてファクトリーに戻ってきた車と言われている。エンジンとトランスミッションを外し、実際にブルドーザーで崖下へ落とされた。翌日スタッフが谷川に降りて探したときには、文字通り完全に姿を消していたという。もう1台のミウラは運転シーンで使われたが、こちらも長いこと消息不明だった。その候補として浮上したのが写真のシャシーナンバー3586である。

ミウラ3586は、1968年7月2日にディーラーに納車された。映画の車はボディがオレンジでヘッドレストは白だが、3586に当初指定されていたのは、赤のボディと黒のインテリアだった。ファクトリーに残る書類を調べると、内装の「黒のビニール」が消されて「白のレザー」に訂正され、塗色もオレンジに変更されていた。これは珍しい組み合わせだ。同時期に白のレザーを使った例は、ほかに2台しか知られていない。



映画のオープニングシーンは6月末に撮影された。したがって撮影を終えてから7月2日に納車することは十分可能だった。撮影場所はイタリアとスイスの国境にあるグラン・サン・ベルナール峠である。そこにミウラを届けたのはランボルギーニの営業部で働いていたエンツォ・モルッツィで、カメラの前で運転もした。モルッツィは、どの車を使ったかまでは覚えていなかったものの、オレンジが選ばれたのは、事故車の色に合わせるためだったと話している。これは3586の塗色が変更されたことと符合する。また、映画を見ると運転席はヘッドレストだけ白で、シートは黒だ。これは、撮影で白のシートが汚れるのを恐れたからだとモルッツィは考えている。納車前に1000マイルも走行したことを顧客に知られたくはなかったからだ。

ここまではいわば状況証拠である。決定的な証拠は、一見したところ取るに足りない部分から見つかった。3586が劇中車ではないかと最初に気づいたのは、フランスでクラシックカーの仲介業をしているエリック・ブルタンだ。きっかけは、2013年4月に3586を納車した際に、新しいオーナーが車を見るなり、映画と同じ配色だと言ったことだった。



「帰ってから、そのことを考え始めました。私たちは映画のオープニングシーンを何度も繰り返し見て、ひとコマごとに、あらゆるディテールを拡大してみました。すると最初は冗談半分だったのですが、仮説を裏付ける根拠が存在することに気づきました。『The Italian Job』のミウラと3586のステッチやドットのパターンを比べると、ヘッドレストやダッシュボードは、同じ箇所に同じ粗がある、まったく同一のものだったのです」とブルタンは話す。

1968年当時、ランボルギーニのインテリアはすべて手作業で仕上げられ、ひとつひとつ微妙に異なっていた。あるシーンを拡大してよく見ると、不規則に曲がったステッチや人工皮革のしわ、ヘッドレストのドットの位置などが、3586のインテリアトリムと完全に一致する。これをねつ造するのは非常に困難だ。

記事が書かれた時点では、3586が劇中車であることはまだ確定せず、疑問を投げかけるランボルギーニのスペシャリストも多かった。しかしその後、間違いなく映画で使われた本物であることをランボルギーニが正式に認定。映画公開50周年に合わせて、クラシック部門ポロストリコによるレストアが完了している。

Words Mark Dixon

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