抜群の優美さとスポーティーな雰囲気を放つ異色の2ドアクーペ

PEUGEOT CITROEN JAPON

SMはDSのゆうに2倍以上の価格の高級GTカーであった。それまでのシトロエンの域を超えていたが、戦前に多数あった高性能高級車の伝統を、フランスに復活させたいという思惑もあったといわれる。
 
SMには、フランスやシトロエンのイメージリーダーというだけでなく、シトロエンが事実上全乗用車に採用するようになった前輪駆動の可能性を確認するという使命もあった。前輪駆動は1920年代の出現当初からインディ500などのレースの場で活躍し、操縦安定性の良さが第一に評価されていたのだが、市販車の性能がどんどん向上する時代に、200km/h以上の高速に耐えて、将来も使える駆動方式なのかを、実地に確認したかったのだった。とはいえ、そのことはさして問題なくクリアされた。
 
SMを実現させたのは、当時の経営者ピエール・ベルコだった。彼には高級志向があり、DSもCXも、彼の功績といえた。ベルコの采配でシトロエンはマセラティを傘下に収め、同社の技師ジュリオ・アルフィエーリの手で、マセラティ製V8エンジンの2 気筒を削るというやり方で、SM が切望していた高性能エンジンを手に入れた。SMのパワートレーンレイアウトはDSと同じであり、フロントミドシップにエンジンを縦置きするFWDなので、それにはエンジン全長が短い必要があった。



しかし今までDSも高出力エンジンの開発に苦心しており、SM の計画でもV4やV6 、V8が検討されたが、うまくいかなかったのだった。ちなみにSMとはSport Maserati の頭文字である。
 
DS以来のハイドロニューマチックと、ストロークのないブレーキシステムのほかに、SM はDiraviと称する車速、舵角に応じてアシスト量が変化する特異な油圧パワーステアリングを採用し、独特の運転感覚を要することが物議も醸した。
 
ロベール・オプロン主導によるSMのスタイリングは、この時期のシトロエン特有のドーム型ファストバックであるが、2ドアクーペとして抜群の優美さとスポーティーな雰囲気を兼ね備え、エキゾチックカー全盛の時代に独自の存在感をはなっていた。

文:武田 隆 Words:Takashi TAKEDA

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