2台のロールス・スロイス ドーンで高級車の定義を比較する

Photography: Jamie Lipman

ロールス・ロイスの現行型ドーンは、ツインターボV12エンジンを搭載したフル4シーターの高級コンバーチブルだ。60年以上前の初代シルバードーンを連れ出し、高級車の定義を比較する。

ロールス・ロイスは、少し前まではセクシーと表現されることのない類いの商品だった。もっとも相応しいといわれるワードは、エレガントという表現こそ適切だが、正確にはラグジュアリーと言うべきだろう。いずれにせよ、ロールス・ロイス社がいままで故意に避けてきた "セクシー"という禁断のフレーズを、今回の新型ドーンではイメージ訴求のキーワードに選んだ事は何を意味するのだろうか。

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同車の発表会では、ドーンのコンバーチブルトップの開閉にシンクロして女性モデルが着衣をとって水に飛び込むという、ロールス・ロイスとしては異例といえるプロモーションビデオが流された。「母上はきっとお好きではないだろう」とは彼らの弁だが、実際には、貴方の親愛なる母上は必ずやドーンを気に入るに違いない。それは家族全員のためのフル4シータースペースと、現行のシリーズすべてと同様の格調高くモダナイズされたインテリアゆえだ。しかも新型ドーンはそれと同じくらい、エンスージアストとしての貴方を満足させるに違いないのだ。ホットロッド並みの6リッター・ツインターボV12と、スタイリッシュな2ドアオープンボディ。ベーシックモデルが25万ポンドという価格は「むしろ安い」と言うべきだろう。
 
新型ドーンはレイス・クーペのランニングギアを用いたコンバーチブル仕様で、ロールス・ロイスのデザイン・ダイレクターであるジャイルズ・テイラーがスタイリングを担当した。ジャイルズはランドローバー・シリーズ1を所有するエンスージアストである。彼の言葉によれば、デザインのインスピレーションを受けたのは、1952年のパークウォード製ボディを持つシルバードーンであったという。ロールス・ロイス社も、その1952年モデルを所有している。それは同社の幹部のひとりが2014年にペブルビーチで開催されたオークションで見つけ、会社のコレクションにとって価値があると判断して落札したという。ほとんど半世紀にわたって一個人が所有し続けていてことでコンディションは最高であったばかりか、オークションへの出品に際して塗装と内装、フード張り替えを済ませてある。


 
当時、シルバードーンはロールス・ロイスのスタンダードに照らしてみても地味なモデルだった。それは1920、30年代のデカダンスとは対照的な、第二次大戦後の疲弊した英国経済の中での節約と合理化の必要性から生まれたものだ。1949年に発表されたオリジナルのシルバードーンは、終戦を迎えたものの経済に大きな打撃をこうむった英国産業が、生き残りをかけてそれまでの方針を大きく転換した象徴のひとつだった。一番の違いは、ロールス・ロイス社自身による標準ボディの架装であり、これを"スタンダード・スティール・サルーン"と呼ぶ。
 
シルバードーンは輸出に命運をかけざるを得なかった英国自動車メーカーの対米輸出の先兵だったのである。開発期間の問題から、すでに自社内に1946 年から存在したベントレーMk.Ⅵをベースに、バッジエンジニアリングが行われた。この理由は明解。裕福なアメリカ人たちは、有名なパルテノングリルとマスコット以外のロールス・ロイスの価値にはカネを払う気はなかったからだ。米国の習慣に従いレディメイドの標準ボディをまとい、当初は左ハンドルのコラムシフト仕様のみが造られた。エンジンはベントレーMk.Ⅵ用をベースに、SUツインをゼニス製シングル・キャブレターにして交換して若干のデチューンを施した直列6気筒だ。1953年になってから、やっと右ハンドルの英国国内版が登場した。
 
シルバードーンはMk. Ⅵより少なく、ベントレーMk. Ⅵの5200台に対して、シルバードーンはわずか761台が生産されたのみであった。中でもドロップヘッドは極めて限定的で、パークウォード製の6台を含む合計28台が造られたに過ぎない。

編集翻訳:小石原耕作 Transcreation: Kosaku KOISHIHARA Words: Mark Dixon 

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