世界中から集まった70台のフェラーリでトスカーナ地方を3日かけて巡る

Photography:Ferrari

フェラーリの歴史は今なお続いているが、2年前に一つの区切りである70周年の時を迎えた。それを祝い開催された特別なカヴァルケード・クラシケ。この特別なイベントに、優美な860モンツァに乗ってロバート・コウチャーが参加した。

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イタリアの陽光の下、風光明媚なトスカーナ地方を3日かけて巡る⋯。それも、神々しいばかりの、超が付く希少なフェラーリでドライブができると聞いて、拒む人がいるだろうか。今年のカヴァルケード・クラシケには、フェラーリの70周年を記念して、世界中から70台のフェラーリが集う。私は友人のダミアンと共に、彼が所有する860モンツァで参加することになった。製造わずか2台の輝かしい戦績を誇るレーシングカーで、レストアが済んだばかりである。
 
カヴァルケードのベース基地はアウグストゥス・ホテルだ。絵のように美しい海辺の高級リゾート、フォルテ・デイ・マルミに建つラグジュアリーなホテルで、敷地内にはアニエリ家の旧別荘もある。集まった70台は、大半が様々な色合いのロッソコルサだが、シルバーやブルー、"ジャッロ・フライ"と呼ばれるイエローも多い。チェックを受けてラリーナンバーを割り当てられていく車列が、夕闇でいっそう美しく見える。


 
参加したフェラーリを紹介しよう。まず、現存する最初期の125 S。次に古いのが、多くのレースに参加しているサリーとダドリー・メイソン-スタイロン夫妻の166 MMだ。166 MMはアメリカからも1台来ており、メキシコからは212インテルが、アルゼンチンからは340 MMが参加。ほかにも、アンドリュー・ピスカーの250 GTツール・ド・フランスや、ブランドンとエイリーン・ワン夫妻の250 GT SWBカリフォルニア、レースを重ねた風格漂う250 GT SWBコンペティツィオーネ、288GTO。たくさんの275 GTB、330、デイトナ、ディーノの姿もある。そして、最新のラ フェラーリ・アペルタ・セッタンテージモ(「70」の意、70周年の今年発売される最後の9台)は迫力あるブラックが参加していた。
 
アウグストゥスのビーチに沈む美しい夕日、よく冷えたアペリティフに、最高のディナー。明日からはイタリア随一の美しい道が私たちを待っている。ところが、翌朝になると天気予報は下り坂だった。そこで、私たちはモンツァの狭い車内に無理やり雨具を押し込んだ。スタートの時間が近づいてきたので、ダミアンが運転席によじ登る。燃料ポンプの準備を整え、スロットルペダルを2回踏み込むと、トランスミッショントンネルにあるスターターハンドルを押した。
 
マンマミーア! なんて音だ! モンツァのエンジンは繊細な小型のV12とは訳が違う。1シリンダーが桁外れに大きな4気筒エンジンだから、サウンドも硬くけたたましい大音響だ。フェラーリの由緒正しい命名法では、1気筒のサイズを車名にしていた。166の場合は、166㏄が12気筒だから排気量1992㏄となる。250 は250 ㏄× 12 = 3.0 リッターだ。こうしたエンジンはボアが小さいため、ミシンのように甘く朗々と響く。

一方、私たちのモンスターは860㏄のシリンダーが4本だから、約3.4リッターである。いよいよ温まってくると、各気筒の点火音まで聞こえてきそうだ。
 
私は、プロシュートのように薄いアルミのボディワークを傷つけないよう気をつけながら、狭い助手席にすべり込んだ。ダミアンは親切にも、私のために助手席にもアクリルのウィンドスクリーンを装着してくれていた。よく似合っているし、簡単に取り外せる。そして何より大いに役に立つことが、あとで分かった。
 
完全に温まっていない860でフォルテ・デイ・マルミの狭い通りを抜け、街の中心にあるスタートラインへ向かう。モンツァは純粋なレーシングカーだけあって、気性が荒く、低速でノロノロ走るのは好まないようだ。私たちは列に並んでタイムカードとコマ図を受け取った。最初の目的地は中世の城壁で囲まれた要塞都市、ルッカだ。スタートの時間が刻々と近づく。フェラーリの旗が振られ、いよいよ出発だ。ダミアンは誘惑に抗えず、860を空吹かしすると、一気にクラッチをつないで派手なスタートを決めた。観衆がワッと盛り上がる。
 

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Robert Coucher

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