それぞれの個性が輝く4台のポルシェ356

Photography: Paul Harmer


 
今回のラインナップ最後の1台は、356Cだ。空冷水平対向4気筒プッシュロッド・エンジン車の最終進化形で、やがて911がその後を継ぐことになる。中でもこの356 SCカブリオレは、究極のCと言われている。より力強いSCエンジンを備え、改良されたカムとキャブレターによって、75bhpが95bhpへとパワーアップされている。また、カブリオレのソフトトップのおかげで、市場での人気もはるかに高い。この個体はカリフォルニアから持ち込まれたものだが、大事にガレージに仕舞い込まれていたのは一目瞭然。どこから眺めても完璧に見えてしまうから、10万ポンドは軽く超えるだろう。昔の356エンスージアストにとっては、心臓に悪い値段である。
 
こうした後期の車には、初期のAモデルほどの曲線美は残念ながら望めない。ボディの高い部分についたヘッドライトや大きなバンパー、大きなウィンドウは、当時のアメリカの安全基準や市場に合わせるためのものだ。しかし、ベース仕様でも一番パワフルなエンジンがオプションで選べ、しかも4輪ディスクブレーキを備える。これはポルシェ15年分の開発と進化に支えられているものだ。


 
タン色のフードを装備したアイボリーのSCカブリオレは本当に美しい。逆に何だか美しすぎて、メルセデス230SLと並んで女性向けの車に見えるほどである。
 
映画『ブリット』でジャクリーン・ビセットが乗っていたから、そう想像してしまったのかもしれないが、SCのインテリアは356にしては実に豪華だ。シートはふっくらとしており、ダッシュボードもフル装備。しっかりとしたソフトトップは、二重に裏打ちされて、狭い後部座席の下にしっかり収まる。また大きなステアリングホイールは、クロームと手の込んだディテールが美しい。
 
カブリオレが道をゆったり進み始めると、すぐに進歩を実感する。これ以前の車より、はるかに出来が良い。操作感は軽いままだが、動きはよりスムーズで洗練されているように感じる。初期の車にはまだVW的な感じが残っていたのに対し、SCは言うなればメルセデス的だ。エンジンは静かだし、ステアリングは滑らかで反動も来ない。ディスクブレーキは安定しており、サスペンションの吸収や減衰も素晴らしい。優しく穏やかなハンドリングだ。
 
モデル最後のこの356は最適のスーパーツアラーなのだ。先行モデルほどスポーティーではないかもしれないが、メーカーのマーケットを見越した開発ぶりと技術の進化とを示す大きな存在であることは間違いない。意外にも、今回のラインナップの中で最も成熟した車がこれであった。速さでも刺激でもまったく一番ではないが、実際の走行フィールでは最も完成度が高く、356シリーズ最高のスタイルを表現している。
 
ポルシェ356はカルト的な車だ。356の世界はハードだけに留まらない。それは人であり、イベントであり、競争であり、レースである。
 
356を所有するということは、大げさに言えば、優れたスポーツカーとそのエンジニアリングを称える国際的な仲間に加わるということなのである。ここに紹介した356は、ヒストリックレーサー、ラリーカー、素晴らしいロードカーと幅広い。読者の皆さんが最も興味をもった356はどれだっただろうか。
 
もしOctane編集部が選ぶのならば、プリルの作業場の脇に放置されていた、少しくたびれた感じの平凡な外見の356Aクーペが一番だ。磨き上げて、プリルの威勢の良い2.0リッター・ツインプラグエンジンを載せれば、あっと驚くようなロードロケットに変身するだろう。

編集翻訳:堀江 史朗 Transcreation: Shiro HORIE 原文翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA Words: Robert Coucher 

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