世界中に衝撃を与えたフェラーリのコンセプトカーとは?

Photography: Mark Dixon


 
モデューロはジュネーヴ・ショーの発表直前に完成したが、そこに至るまでに社内の干渉もあった。ゼネラルマネジャーのレンツォ・カルリは数カ所の変更を加えている。カルリは直径16cmの吸気ダクトを兼ねた穴が並んだリアウィンドウを通常のガラスに替え、マルティンはそれをまた元のスチールパネルに戻した。

「元のカラーは薄いパールが入った淡いシルバーブルーだったが、デザイナーのフィオラヴァンティは、私の意図に反して黒くすることに決めた。その色を選ぶのは、彼がこの車を理解していない証拠だったので、非常に腹が立った」とマルティンは怒りを露わにする。
 
セルジオ・ピニンファリーナに至っては、モデューロをショーから引き上げることを真剣に検討した。真面目に受け取られないのではないかという懸念は発表時も和らぐことはなかった。メディアの反応はだいたい敵対的だった。英国の『Autocar』誌は「夢の、あるいは悪夢の車。実際に見なければ信じられないだろう…黒、白、オレンジの組み合わせはあり得ない配色だ」と書き立てた。『Road & Track』誌のシリル・ポスチュマスは「(モデューロは)デザインの無制限フォーミュラ・リブレで、一目見ると面白い反応が口から飛び出す。『わー』『げー』『えー』『うわー』『神よ』『あっ』『ひえー』『神様』といったところが聞き取れる」とのコメントで結論づけた。
 
だが、ショーへの来場者にはモデューロは大好評だった。ジュネーヴに続いて大阪万博へ行き、その後トリノショーでも展示された。大阪ではジュネーヴ以前の薄いシルバーブルーの色に戻っていた。モデューロは1980年代に入ってもショーを巡回して活躍し続けた。
 
今日でもモデューロにはショックを与える力がある。明らかにデザイン優先、役に立つかどうかは二の次で造られた。ノーズからテールまで連続する曲線と、フロントホイールを包み込む横幅いっぱいのボディと、水平に開いたスリットのモチーフとが融合して独特のSF的な雰囲気を加えている。シド・ミード的でもある。

一方、剝き出しのモンツァタイプ・ヒューエルキャップと太いレース用グッドイヤータイヤは、ベースが競技車輌であることを思い出させる。いつ白・黒・オレンジに塗られたのかピニンファリーナでは誰一人知らないが、「コンセプトカーのシグマの配色と非常に似ているので、ある時点でそれと合わせるためにされたのかもしれない。しかし確かなことは分からない」とはマルティンの推測だ。


 
車内に乗り込むには、シンプルな1個のロックボタンに触れるだけで済む。一体になっているキャノピーが二組の溝に沿って前方にスライドし、シンプルな室内に乗り込むことができる。2名分のシートは中心線に寄り添い、“ダッシュボードらしきもの”の中央にはシンプルな黒地に白字のヴェリア製メーターが並ぶ。ステアリングホイールは右側にあり、Hパターンのシフトレバーがその右側に配置されている。モデューロがコンペティションカーから生まれたことを如実に物語っている。

「当時はスイッチや操作ボタンを作ることはせずに、簡単に手に入るものを買うだけでしたから、そのデザインは基本的なものが多かったですね。私のアイディアは外部のシンメトリーを内部に再現することでしたから、それがコントロール系を収めた2個の“ボール”になったのです。フィアットのミラフィオーリ工場のレクリエーションルームからボウリングのボールを“持ち出して”型を取りましたよ」

「私が最後に見たのは2011年のことでした。壊されずに残っていたのですね。それは間違いなく私が手掛けたオリジナルでしたよ」
 
だが、5リッターV12のティーポ261Cエンジンに火を入れた痕跡はなく、もしかするとシリンダーブロックの中は空かもしれない。

「何年か前、マンドリアのテストコースに運ばれて、日本のテレビクルーが非常に長い下り坂を使って、まるで走っているかのようなシーンを撮影していました。見事な映像に仕上がっていましたね」
 
モデューロは独特の大胆な表現で成功を収めた。多くの場合、こうした車は発表されたときには驚嘆の念を引き起こすが、話題にならなくなると色褪せてしまうものだが、モデューロの衝撃はいまだに消えていない。

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation: Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA Words: Richard Heseltine 

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