値段をはるかに超越したスーパーカーが目を覚ます│ポルシェ911 ターボ

Photography:George Bamford


 
基本的には、流行や誤った情報、無知が原因だ。筋金入りのファンは、オリジナルを重んじ、初期のショートホイールベースモデルの911や911Sを求めるものだが、その理由のひとつはヒストリックカーイべントに参加できるからである。こうした初期型は、当初細い165/15タイヤを履いていたこともあって、突然のオーバーステアという問題を抱えており、ポルシェはそれを抑えるため、バンパーに重りを付けなければならなかった。そんなトリッキーなハンドリングも、既にスペシャリストが解決方法を見出しているし、習熟したヒストリックレーサーなら、スロットルの踏み方も分かっている。だが、流行を追うだけの輩まで、所有する価値のあるクラシックポルシェは1973年以前の軽量モデルだといまだに信じ続けている。
 
ヒストリックカーレースやラリーに出るなら、確かに2.0リッターや2.4Sが柔軟で軽量で素晴らしいドライビングマシーンとなるだろう(2.7RSは値段が桁違いなので問題外だ)。しかし、速くて性能のいいロードカーを考えたとき、こうしたクラシックポルシェのほうがターボより良いというのは間違いだ。
 
最近、初期の911ターボでロンドンとデボンを往復してみて、目から鱗が落ちた。街中では、どっしりとして僅かに鈍い感じを受けたが、その原因は太いロープロファイルタイヤと、エンジンがオフブーストだったせいだ。高速道路ではすぐにターボが効いて制限速度に達し、本当にゆったりとした調子で維持していた。硬めの乗り心地もスムーズになった。

一番感心したのは高速でも静粛なことだったことだ。たいていの古い911は高速道路で酷く煩いのだ。ターボチャージャーには、通常大きな空冷エンジンの音を抑える効果もある。
 
自由に飛ばせる田舎道に来ると、911ターボの偉大さを一層痛感した。カーブまで加速しても、効き過ぎるほどのベンチレーテッドディスクブレーキで楽にターンインできる。素早くコーナリングして、一瞬のうちに楽々と次のコーナーへ。911は素晴らしいグランツーリスモだ。もちろん、ターボチャージャーが効いたときの性格を頭に入れて運転しなければいけない。正しいギアを選んでブーストを高めること。そしてコーナリング中にブーストしないこと。スロー・イン・ファースト・アウトの原則を忠実に守ること。そうすれば、911ターボが暴れることはない。


 
イギリス人ジャーナリストの中で最初に911ターボを試乗したロジャー・ベルも、この「静けさとパワー」の組み合わせを堪能し、こう書いている。「後ろから押される力が強いので、背もたれの高いシートがないと頭を支えられない。にもかかわらず、車の中で感じるのも聞こえるのも、くぐもったうなりだけというのは、なんとも奇妙な感覚だ」
 
1974~1978年の911ターボ初期のシリーズは、オフブースト時のトルクを高めるために、プロトタイプの2.7リッターから3.0ℓに排気量を拡大した。また出力を抑えるためにブースト圧を減らし、圧縮比を6.5:1に下げ、わずか5500rpmで260bhp、35kgm/4000rpmのパワーを発揮した。エルンスト・フールマンは、実績のあるボッシュKジェトロニック燃料噴射装置を選択し、KKK(キューネ・コップ&カウス)社にそれに合ったターボチャージャーを注文した。
 
ターボチャージャーの付いたエンジンはコンパクトな仕上がりに、重量は約206㎏と自然吸気2.7リッターのフラットシックスより30㎏ほどの増加で収まった。エンジン内部では、ピストンやシリンダーヘッド壁が強化され、エグゾースト・バルブはステムに冷却を助けるナトリウムを封入した。鍛造スチール製のコンロッドと頑丈なクランクシャフトは、充分な強度を備えていたので通常仕様のままだ。増強したパワーに対応して、ハイギアードな4段ギアボックスが開発され、4輪にベンチレーテッド・ディスクを装着した。

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.)  Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Robert Coucher

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