砂漠を制覇したポルシェ ダカール959を公道で運転する!?

Photography:Malcolm Griffiths & McKlein


 
ポルシェは、959の開発に着手した際、ラリー参戦を想定していたわけではなかったはずだ。この車が生まれた理由は、新たに設けられたグループBの規定が、技術的に自由なレギュレーションだったからである。
 
グループBは、1982年にラリーとスポーツカーレースを念頭に導入されたカテゴリーで、ポルシェが興味を持ったのは、これによるレースシリーズのほうだった。グループBレーサーをミッドシップにすることもできたが、そのレイアウトはすでに956で数々の勝利を挙げていた。959ではその代わりに、リアエンジンの911をベースにして、将来市販車にフィードバックする新技術を実証する場にしようということになったのだ。
 
ポルシェのエンジニアやデザイナーはまったく手加減をしなかった。生み出された車には、洗練された四輪駆動システムと、レギュレーションの範囲内でトップクラスに位置するツインターボ2.8リッター水平対向6気筒エンジン、そして高度な空力性能が備わっていた。ところが、そのレースシリーズに向けて、必要な200台のホモロゲーション取得を本気で目指したメーカーは、ポルシェのほかにはフェラーリだけであった。おかげで、あのゴージャスな288GTOが登場し、のちにジャガーXJ220の着想の元にもなったが、結局は一般の関心の薄さから、グループBは1985年に正式に断念されるに至る。
 
ポルシェも、そうなることを薄々予測していたのかもしれないが、すでに1983年のフランクフルトモーターショーで959グルッペBコンセプトを発表しており、市販車の開発も進んでいたため、959の優秀さを示す活躍の場がどうしても必要だった。
 
世界ラリー選手権は成功できる見込みがなかった。959では重すぎて、グループBのライバルであるプジョー205T16やランチア037、アウディ・クワトロスポーツなどに太刀打ちできそうになかったのだ。しかし、7500マイルに及ぶオフロードの耐久ラリーなら、重量はそれほどハンディにならない。
 
公道も走行できるこの959は、ドアやルーフ、ガラス部分の形状に、オリジナルの911をベースにしていることが見て取れる。インテリアもより洗練され、スイッチ類で埋まってはいるものの、見覚えのある光景だ。ダカール959の、まるで羽根のように軽いドアを開けると、ペイントされただけのスチール製フロアパンが目に入る。ラリーカーだから、当然むき出しなのだ。

911標準の計器類が収まったシンプルなメーターパネルの上面には、鋲で打ち付けた急ごしらえの日よけがついている。その横には補助的なメーターが3つあり、ひとつはリアのアクスルギアの温度計だ。太いハンドブレーキに見えるものは、実はリアのディファレンシャルをロックするためのもの。そのすぐ前にあるのはブレーキラインロックバルブで、各ステージの開始時にホールドするためのもの。並んでハンドホイールレバーがあり、センターデフをロックできる。この959は、四輪駆動時以外は後輪駆動だったのだ。

編集翻訳:堀江 史朗 Transcreation:Shiro HORIE 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:John Barker 

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