強烈なスタイリングのモンスター│モータースポーツヒストリーに名を残すマシン

Photographs:Porsche Museum

ロングテールの917以上に強烈な印象を与えるスタイリングのレーシングマシーンがこれまでに存在しただろうか?デビュー当初はおそろしく速いものの極めて扱いにくかったモンスターは、やがて自動車レースの歴史に名を残す偉大な存在へと進化を遂げた。

素晴らしく美しく、空気抵抗の少ないボディライン、そしてスティーヴ・マックイーンが主演し、今やカルトムービーともなっている映画『栄光のル・マン』で果たしたその輝かしい役割。ポルシェ917が現在、いわゆるアイコンとしてのステータスを確立しているのは、まさにこのふたつの理由によるものである。ただ、このマシンの背後にいた関係者たちにとって、この2つの点はどちらもさほど重要な関心事ではなかった。何より、勝利への強い願望がすべてを占めていたのである。
 
今では信じがたいことだが、917が登場する以前のポルシェは、スポーツカーレースにおいて地味な存在であった。ツッフェンハウゼンを本拠地とする彼らは、エンジンの排気量が2リッターと小さかったこともあって、スポーツカーレースにおいて最も重要なイベントであるル・マン24時間で総合優勝を果たしたことがなく、60年代の中盤までは排気量のより大きなフェラーリやフォードが主役を務めるのを横目で眺めていなければならなかった。
 
しかし、1968年になってスポーツカーレースのレギュレーションが大幅に改められたことにより、ポルシェに絶好の機会が訪れる。それまで無制限だったスポーツ・プロトタイプの排気量に3リッターという上限が設けられたのである。これに合わせて彼らは3リッターモデルの"908"を開発したが、この年のチャンピオンシップでは5リッターのフォードGT40にタイトルをさらわれてしまう。そこで69年シーズンを迎えるに当たり、ポルシェは勝利を追求するためには費用を惜しまないとの強い決意を固めた。たとえそれが、5リッターまで排気量の上限が認められていたカテゴリーの条件を満たすために25台ものマシンの製作を要求される、つまり巨額の出費を強いられることを意味していたとしてもである。こうして誕生したのが、"917"と命名された新型マシンだった。
 
そのシャシーは、速いが耐久性にいささか欠けていた908をベースに、917用に新たにスペースフレーム(アルミパイプで構成され、単体重量は42kgと超軽量!)が製作された。新型マシーンをできるだけコンパクトなものにしたかった開発陣は、ドライバーの搭乗位置を大幅に前進させた。そのため、ドライバーの足先は前車軸より前方にはみ出てしまい、事故が起きた際には極めて危険であったが。
 
その勇敢なドライバーの背後には、排気量4.5リッターの水平対向12気筒エンジンが搭載された。それは基本的に水平対向6気筒を2つ連結したようなもので、当初の最高出力は580bhpと発表され、車重800㎏のマシンを200mph(約320㎞/h)以上まで駆り立てたそれは端的にいうなら、ほとんど保護するもののない宇宙飛行士を乗せたロケットであった。 

編集翻訳:檜垣和夫 Transcreation:Kazuo HIGAKI Words:Roger Green 

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