小さな小屋でスタートした?│ポルシェの波乱万丈な歴史

archives: Porsche AG



ポルシェは911に代わる存在を見つけることには失敗したかもしれないが、1977年は成功の年となった。936がル・マンで優勝したのだ。936は1981年にもル・マンで優勝し、ポルシェ創業50周年を飾っている。1981年には944が発表された。924がポルシェにしては控えめすぎると評されたのに対し、4気筒2.5リッター専用エンジンを備えた屈強なイメージの944は、はるかに高い評価を得た。

ポルシェは数年掛けて四輪駆動の開発を進め、1983年のフランクフルト・モーターショーで911グルッペBとして発表した。959のコンセプトカーである。この車が誇ったのは四輪駆動だけではない。400bhpのパワーで最高速320km/hも現実に可能だった。ホモロゲーションに必要な予定生産台数の200台は、モーターショー会期中に予約が一杯になり、1986年に959として発売された。この新車には大きな意味を持つ変更点があった。リアエンジンのポルシェとして初めて、シリンダーヘッドのみではあったが水冷式を採用したことだ。やがて、959の四輪駆動コンセプトは他のモデルに適用され、1988年に911カレラ4が登場した。
 
911の後継車を生み出す試みは既に失敗に終わっていたが、その脇を固める車を造ることもやはり困難だった。944とその進化形である968も優れたモデルではあったが、1990年代初めには古さが感じられた。一方911は、外見のイメージを踏襲したまま964、993へと絶えず進化し続けた。
 
そして1997年、目の肥えたスポーツカー市場から大きな期待を一身に受けて、ポルシェが発表したのがボクスターだった。このミドエンジン・ロードスターは、コンセプトカーの発表から発売までに3年半を費やした。新開発の水冷式フラット6を採用し、911よりはるかに安い値段でポルシェの興奮が味わえた。ボクスターが発売3年で5万5000台を売り上げたのも意外ではない。
 
さらなるパフォーマンスの追求とエミッション、走行中の騒音規制に適合させる必要などから、1998年に初めて911が水冷式のフラット6エンジンに変わった。ボブ・ディランがエレキギターに変えたようなものだと感じ、空冷式の911にこだわり続けた者もいる。だが、これで終わりではなかった。多くの予想通り、911は進化を続け、996、997へと姿を変えていった。
 
水冷式の911はポルシェにとって一線を画すできごとだったが、2002年のカイエンが示したブランドの方向転換には、誰もが驚いた。だが、これが大きな利益をもたらすことになる。カイエンはVWトゥアレグ、アウディQ7と共通のプラットフォームを持ち、開発コストを抑えたモデルだった。ポルシェのバッジをボンネットに付けたカイエンは、すぐにほかの高級4×4の市場を奪っていった。
 
続いて2009年に現れたパナメーラによって、ポルシェはさらに異なる市場に参入を果たし、メルセデス・ベンツやベントレーなどの老舗高級車マーケットに食い込んでいった。
 
一方、ボクスターが第二世代に進化した頃、長く温められていたクーペバージョンの構想が形となった。2005年に登場したケイマンはすぐに大絶賛を集めた。Sスペックは事実上パフォーマンスで911に匹敵し、ミドエンジンレイアウトによって機敏で予測しやすいハンドリングを実現していたから、誰でも911より速く走せることができた。ポルシェはケイマンによって、伝説の911の後継車を気づかないうちに手に入れていたともいえる。
 
だが、今も911は健在だ。最新バージョンの991は2012年に発表されている。50歳の誕生日目前のその時でさえ、その生命力に陰りがないのは明らかだった。

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Ben Field

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