日常的に使えるスポーツカー│ジャガーEタイプとポルシェ911の共通点

Photography:Paul Harmer

ポルシェ911とジャガーEタイプには意外にもいくつかの共通点がある。初期の911とEタイプを乗り比べてみよう。

心底好きか。見るのも嫌か。それが、1963年にフランクフルト・モーターショーで発表された際にポルシェ911に与えられた評価だった。最初から広く受け入れられたわけではなかったのだ。901という名前で現れたペールイエローの車を見て、ポルシェの新車は大きくなって飾り気がなくなり、値段が跳ね上がったと感じる人も多かった。先代の356は曲線の美しさで愛され、忠実なファンが大勢ついていた。

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それから50年の歳月が流れた現在では、当初、911に対する評価が分かれていたなど、とても信じられない。一方、その少し前の1961年に登場したジャガーEタイプのほうは、同様に進歩的な車ながら、喝采をもって迎えられた。先行車との比較でも好意的な評価ばかりであった。

911もEタイプも未来の車だった。1961年はもとより、1963年には一般的な車では100㎞/hがやっと、スポーツカーでも大半が160㎞/h止まりであった。自動車工学は1960年代に大変革を遂げたが、その最先端がこの2台だった。

それまでのジャガーは、1940~1950年代のモデルの進化形に過ぎず、シャシーは重く、サスペンションも古くさい仕様だった。対してEタイプの原型となったのはレーシングスポーツカーのDタイプだ。先進的なモノコックタブとスペースフレームを組み合わせたシャシー構造を持ち、レースで数々の勝利を挙げた常勝マシンである。
911も背景は似ている。356はフォルクスワーゲンをベースに改良を進めた実績あるスペックだったが、911ではそこから離れ、ツッフェンハウゼンのエンジニアたちがレースで積んだ経験を生かしたのである。その結果、軽量な構造、進化したエンジン、しなやかなサスペンションセットアップを手に入れた。

このように共通点もある911とEタイプだが、一般には両極端の存在と考えられているから、この2車を比べるとはずいぶん変わったことをすると思われるかもしれない。確かに、911とEタイプのレイアウトはこれ以上ないほど正反対で、まったく同じなのは6気筒という数字とトーションバー式サスペンションくらいだ。だが、どちらも50年前にはパイオニア的存在であり、最強のレーシングカーの血筋を受け継いでいた。そして、そのオーナーになったら熱狂的な情熱を傾けずにはいられなくなる点でも相通ずる。さて、この2台を並べてみたら、いったいどんなことが見えてくるのだろうか。

"901"という車名が"911"に変わったのは製造が始まってからだった。ファクトリーで82台が完成したところで、プジョーから中央に"0"が入った3桁の数字には商標権があるとクレームが付いたことはよく知られている。

356の後継モデルを造るにあたって、ポルシェは新しい901について数々の目標を定めた。室内は356より広く、真の2+2にすること。ラゲッジスペースを拡大すること。居住性、ハンドリングとも改善すること。2リッターのカレラエンジンが備える高いパフォーマンスと、60bhpの356が持つ静音性と落ち着きとを両立させること。そして、グリースニップルを廃止し、日常的なメインテナンスを大幅に減少させことである。

第一の目標を達成するため、911のホイールベースを356の2100㎜より長い2211㎜とし、ガラス面積を57%広げたことで、室内に心地のよい開放感を生み出した。さらに驚くべきことは、911は前面投影面積が356より大きくなったにもかかわらず、Cd値は0.380と低くなった(356はCd=0.398)。



ステアリングにはZF社が新たに開発したラック・ピニオン式を採用したが、4輪ディスクのブレーキは効果的なATE製を356から引き継いだ。これでも車重は燃料を含めて1080㎏と低く抑えられた。フロントサスペンションはトーションバー式を引き継ぐものの、356のダブルトレーリングリンク式から、最新式のマクファーソンストラットとトーションバーの組み合わせに変わった。リアサスペンションでは、横置きトーションバーとセミトレーリングリンクを継続するものの、ホイールハブを支持するのはドライブシャフトではなくサスペンションアームに変わり、チューブラークロスメンバーに溶接されたブラケットでピボットするようになった。この変更によって、タイヤの仮想スイングアーム長を大幅に延長すると同時に、キャンバーとトーインの変動を抑えることができた。ポルシェはこうしたサスペンションの経験を積んでいた。

だが、新しいポルシェ最大のアピールポイントは、いうまでもなく130bhpを発揮する2000㏄ 6気筒エンジンである。それまでの356 のOHVヘッドのアルミ合金製4気筒エンジンは、長年の間に改良された結果、最終仕様のSCバージョンでは95bhpを達成するまでになっていた。このほか356にはエルンスト・フールマンがレース用に設計した4カム4気筒2リッターのカレラエンジンが存在した。それは130bhpを誇ったが、非常に複雑な機構であり、また極めて騒々しく、日常的に使うスポーツカーのエンジンとするには適当ではなかった。

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Robert Coucher Thanks to Marcus Carlton for his Porsche 911S and to Derek Hood of JD Classics and owner T

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