ベルギー国王のために造られた特別なアストンマーティンが捨てられていた?

Photography:Tim Wallace/Aston Workshop



こうして、シャシーナンバーLML/802がトリノへ送られ、ハンドメイドのアルミニウム製ワンオフボディが造られた。DB2/4の特徴であるファストバックにはアクリルガラスをはめ込んだ大きなハッチが設けられ、フロントウィンドウはラップアラウンドで、インテリアはヴィニャーレらしくシンプルだがエレガントにまとめられていた。完成した車は1955年3月10日に納車されている。

DB2/4ヴィニャーレを若き国王がどれほどドライブしたのかは定かではない。分かっているのは、1950年代後半に宮廷の側近、T. R. モッターセドに売却されたことと、しばらくフランスのモゼル県に保管されていたが、1960年代初頭に再び人手に渡ったことだ。新たなオーナーとなったのは、アメリカ人兵士のジェイムズ・トスだった。NATOの一員としてパリの最高司令部に勤務していたトスは、パリの裏道でガレージに停まるDB2/4ヴィニャーレをひと目見るなり恋に落ちてしまったのだ。購入すると、フロントバンパーとフロントグリルの格子を外してしまった。そのほうが見た目がよいと考えたらしい。

アメリカへ戻ってからもトスはDB2/4ヴィニャーレを日常的に使っていたが、あるときコンロッドがシリンダーブロックを突き破ってしまった。応急処置では長持ちせず、借金をしてアストンマーティンから新しいシリンダーブロックと内部パーツを購入し、自ら受け取りにいった。ところが、このエンジンもブローしてしまったため、さすがのトスもついに諦めた。走行不可能な車の広告をあちこちの基地に出して、ようやくある陸軍大尉に売却。価格は1000ドルだったが、背負った借金を返済するのには充分な額だった。

DB2/4ヴィニャーレには少なくとももうひとりオーナーがおり、いずれかの時点でポンティアックのエンジンに換装されたことが分かっている。最終的に、バージニア州のローランド・ウォマックの手に渡り、1990年代末にウォマックがイギリスのアストン・ワークショップにレストアベースとして売却した。こうしてDB2/4ヴィニャーレは再び海を渡ってイギリスにやってきたのである。その際、ヴィニャーレで造られたオリジナルのアルミニウムパネルとドアだけでなく、オリジナルのシャシー、サスペンション、バンパー、グリル、ヘッドライトユニットが揃っていた。

さらに、2基目のエンジンやギアボックス、キャブレター、ペダ
ル装置に加え、細々したパーツも大半が当時のまま残っており、レストア可能な状態だったという。

ビーミッシュにあるアストン・ワークショップの社長、クライヴ・ディキンソンは、次のように振り返る。「驚くほどよいコンディションでした。レストアに長い時間がかかったのは、他の仕事の合間に進めるしかなかったからです。そもそもDB2の価値が上がり始めるまでは手もつけていませんでしたが」

車をコンポーネント単位にまで解体すると、まずは付属していた直列6気筒エンジンのリビルドに取りかかった。オリジナルパーツをできる限り生かすよう努めたが、残念ながらシリンダーブロックとシリンダーヘッドには深刻なダメージやクラックが見つかったため、新たに代わりを探し出した。チームはこの機会に主要コンポーネントのアップデートも行っている。一例がオイルポンプで、これによってパフォーマンスが向上し、エンジンのライフも伸びる。また、カムシャフトをスポーツ仕様のものに交換し、クラッチもDB5/6仕様にアップデートした。



同様に、ステアリングやサスペンション、ブレーキに関しても徹底的な整備を行い、控えめなアップデートを施した。まず、ステアリングには切り替え可能な電動式パワーアシストを装備した。DB2の特徴のひとつが、トレーリングアーム式フロントサスペンションで、アンチロールバーとロワアームがアルミニウム製ケーシングに収まっている。このケースはニードルローラーベアリングのオイルバスも兼ねているため、ベアリングとシーリングのレストアも行った。

一方、ドラムブレーキはそのまま使用可能だっ
たので、リフレッシュ程度に留めた。 ボディワークを外したシャシーは、まずジグに載せてビーズブラストをかけた。すると、正方形に口を開ける大きなスチール製フレームワークは非常によい状態だったが、フロアパネルやホイールアーチの内部、フロントのバルクヘッドには、部分的に新しいパネルを溶接する必要があった。こうした作業が完了すると、シャシー全体にプライマー処理をし、アンダーコート、次にパウ
ダーコートをかけた。

ボディシェルは、ノーサンプトンのシェイプクラフト社でレストア作業を行った。これをシャシーに架装して新しいドアフレームをはめ込み、チリ合わせをして、ドアパネルを戻す。次が塗装の下地準備だ。塗料の付着性を高めるエッチングプライマー処理を施し、圧膜タイプのサーフェイサーでコーティングしたら、何百時間もかけて磨き上げ、徹底的にフラットにする。こうしてベースを完璧に仕上げてからツートーンカラーに塗装し、光沢のあるコーティング材で保護した。「写真では伝わりません。実物を見れば分かりますよ。本当にセクシーな車なのです」とディキンソンは話す。

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO(Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Peter Tomalin 

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