ドイツで最も有名な両親の隠し子?│ポルシェ 914 6気筒のパワーを探る

Photography:Andy Morgan



この美しい914/6GTは現在のオーナーであるサイモン・バワリーがシェイクダウンのためにシルバーストーンのテストデイに持ち込んだものである。ポルシェのスペシャリストであるブルース・クーパーによって美しく塗装し直されたGTは、サイモンによれば一般的な意味でのレストアというよりリビルトされた車だという。

サイモンが2006年にスイスで、エンジンが壊れたまま1974年からほったらかしになっていたこの車を見つけた時、オドメーターはわずか1万2000㎞だったという。しかもそれはすべてサーキットで刻まれた数字であり、パーツはすべて揃っていたものの、

みすぼらしい姿だったらしい。ブルースはホワイトボデ
ィの状態まで戻した後にオリジナルのレモンイエローに塗装、いっぽうエンジンとギアボックスはドイツの専門家カール・フロックに送られて慎重にリビルドされた。

第一印象はとにかく小さいということだ。914は現代の911より10㎝ほど低く、前面投影面積が小さいためにボクシーなボディにもかかわらず空気抵抗が小さい。室内はスパルタンだが非常にルーミーで、上下にも横方向にもスペースは十分。ただし真後ろだけは直立したバケットシートのすぐ背後にリアバルクヘッドがある。ペダル類は911と同じで、わずかに車の中心に向けてオフセットしている。

エンジンが冷えている場合は少しアクセルをあおる必要があるが、暖まっていればキーを一瞬回しただけでエンジンは盛大に目覚める。ほとんどサイレンサーがないポルシェのフラット6の咆哮は凄まじく、その日は他にも珍しい高性能車が並んでいたにもかかわらず、エンジンをかける度に皆の顔がこちらに向いたほどだ。

ポルシェUKの好意で、私たちはエクスペリエンスセンター・トラックを試乗に使えることになった。思いがけないことに、かつてのエースドライバーであるリチャード・アトウッドがポルシェ・ドライバーズ・デイに参加しており、その彼に914/6の思い出を訊ねてみた。彼によれば、1970年のタルガ・フローリオにプラクティス用としてワークスGTを持ち込んだが、チームメイトと話し合った結果、911と比べて特別なメリットはないと判断されたという。彼の意見では、平均的な技量のドライバーにとっては限界付近では914/6のほうが操縦しやすく、対して911を全力で走らせるには特別なスキルが必要という。

6気筒エンジンはまったくストレスなく軽々と回り、さらに6000rpmからは恐ろしい勢いで8000rpmのリミットまで吹け上がる。小さくツイスティーなコースの上り坂をまったく苦にしない力強さだ。ドライバーズシートからはフェンダーの端のサイドランプしか見えないが、それがちょうどいい目印になった。914/6はロールをほとんど感じさせず、まるでカートのようにただ機敏に向きを変える。



914/6の弱点はギアチェンジである。911と同じギアボックスなのだが、長く曲がりくねったリンケージのせいで曖昧なことこの上ない。正確な手応えを求めて改良を施したというが、正直に言うと短い試乗の間中、自信を持ってクラッチをつなぐことはできなかった。何度かエンジン回転を下げてしまったが、そうするとウェバーが大げさに咳き込んでしまって元に戻すのにシフトダウンを要する。回転を正しくキープしてさえおけば、914/6は思い通りに向きを変え、路面に貼り付いたように走る。

914/6はサーキットでは成功を収めたかもしれないが、ショールームではそうでもなかった。1970年と71年には914はドイツで最も売れたスポーツカーとなったにもかかわらず、1971年までに販売された6気筒モデルは計3332台にとどまった。914シリーズはその後も改良が加えられたが、1975年に生産を終了する。ボクスターの登場によって人々が再びミドシップ・ポルシェを楽しめるようになったのは、それからほぼ20年後のことである。

編集翻訳:高平 高輝 Transcreation:Koki TAKAHIRA Words:Delwyn Mallett

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