鍛え抜かれたアストンマーティンのサーキット専用スーパーカーとは?

Photography:Dominic Fraser

アストンマーティンが誇る800bhpのサーキット専用スーパーカー、ヴァルカン。購入者がその実力をポールリカールで初体験した。

目を閉じて、自分がヴァルカンのオーナーだったらと想像してみてほしい。わずか24台しか製造されない、アストンマーティン史上最もパワフルなスーパーカー。そのシートに自分が座るのだ。

次に、どこへ持っていくかを考えよう。世界中のあらゆるサーキットから最も適した場所を選び、そのストレートでV 12エンジンを解き放つ。800bhpを堪能したら、超強力なカーボンセラミック製ブレーキで一気に抑え込み、レースで鍛え抜かれたサスペンションでコーナーを攻めていく。理論上は200mph(320㎞/h)での走行も可能だ。なにしろ、これまでに造られたどの車より進化した空力性能を備え、生み出すダウンフォースは1000kgを超える。まさに夢の車だ。

しかし、ふと不安がよぎらないだろうか。自分の能力が、コーナリングの途中、あるいは、高速のストレートエンドで追いつかなくなったら…。180万ポンドのスーパーカーは、アストンマーティンの現役ワークスカーより先進的でパワフルだ。夢は一瞬のうちに悪夢へと変わりかねない。だが、心配はいらない。そうした最悪のシナリオもアストンマーティンは織り込み済みだ。ヴァルカンの購入者には、トレーニングプログラムも提供される。どんなレベルのドライバーでも、世界中のあらゆるサーキットでヴァルカンを乗りこなせるようになるのだ。

そのプログラムの第一歩が、南フランスのポールリカール・サーキットで行われた。コート・ダ・ジュールから10マイル足らずの場所にあり、1970~90年にはフランスGPの舞台となった場所だ。フラットな高速コースだが、カラフルなランオフエリアでも有名で、グリップの高い青のラインと、さらにグリップする赤のラインがコーナーの外側を取り囲んでいる。ここに、ヴァルカンの最初の顧客3人を含む、最上のお得意様が招かれた。『Octane』も同行して、決して忘れられない体験を共有した。

隣接するオテル・ド・キャストレからサーキットへ向かう。ここは隣がサーキットだとは思えない、落ち着いた佇まいの高級ホテルだ。アストンマーティンは、ピット上のホスピタリティースイートを確保しており、まずはそこで短いレクチャーを受ける。黄旗や赤旗の説明以外にも、「脳が車の一歩先を行くようにするのが目標」というワクワクするような言葉を聞いた。それが終わると、階段を下ってピットガレージへ向かう。

そこには胸が高鳴る光景が待っていた。市販のV12ヴォランテSとヴァンテージGT4が各4台、Oen-77 が2 台も、そしてヴァルカンが1台並んでいたのだ。

まずは、V12ヴァンテージSに1名ずつ乗り込み、インストラクターのドライブで、ギアチェンジや走行ライン、ブレーキングポイントなどの説明を聞きながら数周の下見走行を行う。頭に入れることは多いが、抑えた走行なのでなんとかついていける。ピットに戻ったらシートを代わり、いよいよ自分で走行する。

私のインストラクターは、グッドウッドのラップレコード保持者、ニック・パドモアだ。バックミラーで後方から迫り来るヴァルカンに気を配りながら、穏やかな口調で各セクションを事細かく指示する。

「ここでブレーキ。3速で。ブレーキを離してター
ンイン。少しずつ踏んで、強く、全開で! よくできた」(問題があった場合は「次はこうして…」)

数周すると、時折だが、脳が車の一歩先を行く
ようになった。しかし、ポールリカールは難しい。特にミストラル・ストレート先の連続する複合コーナーは頭がおかしくなる。初めは誰もが「どう走ればいいのか」と叫んでいた。

565bhpのV12ヴァンテージSは、サーキットでも充分力強い。比較の対象がなかったこの時点では、コーナリングもフラットでターンインも正確に感じた。サウンドも素晴らしい。ただ、ヘルメットで音量が減るため、半周もすると、レッドラインに近づきすぎて7速のスポーツシフトⅢトランスミッションが自動的にシフトアップを始めた。そうなる直前に自分でパドルを操作できたときの満足感は、なかなかのものだ。

ブレーキは強力。公道用のタイヤだがグリップは高い。少し力が入りすぎるとリアがふらついたが、そこまで攻められるようになるのが最初の周回の目的だ。

あっという間にクールダウンの時間になった。今の走行を頭の中で反芻したら、もう一度V12ヴァンテージSに乗り込み、サーキットを完全に自分のものにする。ここまでくると、少々物足りなさを感じるようになった。最高速度205mph、0-60mph加速3.7秒の車にもかかわらずだ。この成長の早さには我ながら驚いた。
 

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO (Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:David Lillywhite 

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