手作業で造り上げられたサラブレッドを「復刻」│待ち受ける困難

Photography:Paul Skilleter and Jaguar Heritage



「オリジナルのXKSSは左右対称ではなく、2台として同じではないことが分かりました。私たちは4台のオリジナルを3Dスキャンし、ほかにも数台を調べて全体像がつかめました。サイズの差はだいたい10㎜以内です。1台だけ19㎜ほど違うものがありましたが、ミッレミリアで衝突したヒストリーがあったのです。面白いことに、ホイールアーチのアウトラインやフェンダーのカーブは非常に似通っていました」とケヴは語った。

ハンドメイドの車はまず左右対称にはならない。当時、イタリアのカロッツェリアが製造した車はもっと差が大きい。Dタイプの場合(当然XKSSも)、デザイナーで空力家のマルコム・セイヤーの要求で、メカニカルパーツをできる限りタイトに包み込むようにボディワークが絞り込まれた。そのため、空間が5㎜以下の箇所もある。当時は24~50㎜ほど空いているのが普通だった。

「スキャンで決定できたことはたくさんあります。使うべき技
術はプレス加工か、最新のスーパーフォーミング技術か。あるいはカークサイト合金を使う試作ツールや木工機械を使うか⋯。レストアした車もたくさん見にいきました。完璧すぎるものもあり、それは私にはあまりにも新しくて深みがないように見えました」とケヴは話す。

「品質を上げる必要もありました。たとえば、オリジナルのXKSS
ではドアがシルにぶつかります。ただし、やり過ぎたくはなかったので、パネルを手作業で成形することはすぐに決まりました。次の課題は、この作業量を引き受けられる会社を見つけることでした」

イギリス国内のいくつかの会社を回ったが、結局は近隣のエンヴィゼージ社に決まった。有名なプロトタイプや少数限定モデルを数多く手掛けているコヴェントリーのエンジニアリング会社だ。金属加工の職人を30人以上抱え、若い職人も多い。中でも腕の立つベテランは、XK120からXJ220までジャガーのボディを製造していたアビーパネル社で仕事を覚えたというから、嬉しいではないか。

カー・ゼロのボディワークは、イングリッシュホイールと伝統的な打ち出し技法を使って造られたが、成形で使用した型は、1950年代では木製だったのに対して、今回はグラスファイバー製だった。プロダクションモデルのボディも製作手法は同じだが、その型は、強度のあるポリウレタンのウレオールをエンヴィゼージ社で機械加工して造る。

型を除けば、できる限り1950年代と同じ素材を使用した。ボディにはNS3アルミニウム合金を使い、小さくフラットなパネルにはそれより軽いが成形が難しいMG2マグネシウム合金を使用したのも当時と同じだ。スチールフレームに関しても同様で、現在は生産されていないレイノルズ531鋼管を特注し、それを使ってハンティンドンのシャシースペシャリスト、アーク・モーター&マニュファクチュアリング社が製造した。

メカニカルパーツはどうだろう。XKSSのエンジンはDタイプとまったく同じものだ。3.4リッターの鋳鉄製ブロックを8.5度傾けて搭載。軽合金製シリンダーヘッド、2基のウェバー製45DC03サイドドラフト・キャブレター、ドライサンプ潤滑方式を採用して、当時は出力250bhpと謳われた。ジャガーがこの復刻を依頼したのは、アウトウニオンGPカーの復刻や世界の主要レーシングカーのレストアで知られる、クロスウェイト&ガーディナー社だ。

クロスウェイト&ガーディナー社には、エンジンとトランスミッションパーツの製造が依頼された。シリンダーブロックとヘッド、ギアボックス・ケーシングは新たに鋳造し、クランクシャフトはビレットから削り出す(オリジナルは鍛造だった)。さらに、ウォーターポンプや他の付属パーツも新たに製造してもらった。最終組立はジャガー・クラシックが行うが、必要な工具や治具の費用も負担するという取り決めだ。巨額の投資にはなるが、こうすることで、長く廃版になっていたパーツが今後は入手可能となる。



60年もの時を経て再び造られた真新しいエンジンパーツを見ると、不思議な興奮を覚える。とりわけ素晴らしいのがシリンダーブロックで、少々見事すぎる気がするほどだ。事実、チームもクロスウェイト&ガーディナー社に対し、鋭いエッジを少し"風化"させるよう頼んだという。必要なパーツは他にもたくさんあった。そのひとつが当時最新式だったダンロップ製ディスクブレーキだ。フロントとリア、合計4個のキャリパーに20個のパッドを備える(パッドの交換にピストンの取り外しが必要なタイプ)。

パワーアシストは一
般的なサーボ式ではなく、プレッシー製ポンプだ。これらをすべて新たに製造したのだ。サスペンションパーツにも難しい問題はあったが、ジャガー・スペシャリストのピアソンズ・エンジニアリング社から調達できた。これからも、ジャガー・クラシックが最高のスペシャリストを選んでいるのが分かる。

やっかいだったのが計器類だ。当時のスミス製メーターは現在では希少品となっている。しかし、数年前から製造を引き継いでいるカーボント・オートモーティブ・インストゥルメンツ社が、ジャガーのオリジナル図面を元にXKSSの計器類を復刻した。

ほぼ同じ仕様の既製品を購入できるパーツもあったが、"ほぼ同じ"では100万ポンドを超える車にはふさわしくない。その一例がステアリングホイールだ。

「ステアリングの図面が残っていたので、リベットのサイズやリムに使った木材など、すべてを確認できました。私たちは、ステアリングは非常に重要だと思ったのです」とケヴは話す。

ジャガーは、そうした図面や仕様書、部署の責任者からの書面などを、長年アーカイブに保管してきた。ファクトリーの近くにある岩塩坑の奥深くは、乾燥した安全な保管場所だ。チームは何百時間も費やしてパーツの仕様を徹底的に調べ上げ、それは留め具のひとつひとつにまでおよんだ。ボディには2000個以上のリベットが使われているが、信じられないことに、チームはすべてのリベットについて寸法の分かる図面を探し出したのである。ナットやボルトに関しても同様だ。

留め具の調達も一苦労だった。大半のリベットやボルトは現在も入手可能で、ナイロック(特殊ナイロンで緩み止め加工をしたナイロックがオリジナルでも使用されていた)もそのひとつだ。しかし、それほど一般的でないオディー・ナットは製造を依頼しなければならなかった。

逆に、アップグレードが必要なパーツもあった。例えば燃料タンクは、F1やヘリコプターの技術を利用して新たにデザインした。現在の燃料はエタノール含有量が高いため、オリジナルの仕様では持ちこたえられないのだ。

また、4点式シートベルトも備え、リアに隠れたFIA準拠のロールフープに固定されている。カーペットもオリジナルにはなかったが、希望する顧客もいる。見た目の問題だけでなく、フロアから伝わってくる熱を遮断するためだ。D タイプもXKSSも車内が熱くなることで有名で、特に助手席の足元は非常に熱くなり、靴底が溶けるほどだといわれている。

室内トリムに関しても、オリジナルの仕様にできる限り近づけることを目指した。シートレザーやセンタートンネルのカバー、ドアトリムは、しぼの模様に至るまで正確に再現されている。また、トリムのカラーバリエーションも60年前と同じだ。ただし、100万ポンドも支払うのだから、顧客がオリジナルと違う色を希望すれば、それに応える。ボディカラーについても同様だ。 

ところで、カー・ゼロのボディカラーは伝統のBRGになるの
ではないかと予想されていた。 「実は、最初はインディゴブルーにする予定で、その後ブリティッシュレーシンググリーンが候補になったんですよ。ところが、当時の色、特にブリティッシュレーシンググリーンは非常に濃い色なので、カーブの美しさを見せる点ではこの色に適わないと思います」とケヴは言い、明るいシャーウッドグリーンにペイントされたカー・ゼロを指差し、比較のためにカバーを外してオリジナルXKSSのBRGを見せてくれた。確かにケヴの言う通りだ。

編集翻訳:伊東 和彦(Mobi-curators Labo.) Transcreation:Kazuhiko ITO( Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Paul Skilleter Archive

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