ぶっ通しで4日間走り続ける過酷なヒストリックカー・ラリーに参加

Photography:Francesco Rastrelli, HERO

F1コメンテーターのトニー・ジョルダインにとってヒストリックカー・ラリーは未知の世界。だから彼が初めて参加するラリーに、数ある同種のラリーの中でもっともタフなものを選んだのは正解だったかもしれない。タフであればあるほど、ヒストリックカー・ラリーの真髄がわかるからだ。

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評判が評判を呼んで、ル・ジョグ・ラリーは大きなイベントに成長した。ヨーロッパではもっとも難易度の高いヒストリックカー・ラリーであると多くの人が認めており、今なら私でもその意味がよく理解できる。ル・ジョグは純粋なモータースポーツであり、耐久と冒険の要素がうまく溶け合い、参加者には肉体の頑強さと技術、意志の強さが要求されるラリーなのだ。私は事前にネットで下調べをしたのだが、その過酷さはびっくりするほど。一瞬たじろいだが、生きているうちに挑戦しなければという気持ちになったのもたしかである。それがこんなに早く実現するとは。



そのとき私の中では噴出したアドレナリンが行き場を失っていた。昨年の8月、WRCのウェールズ・ラリーGBに、自転車の金メダリスト、ジェイソン・ケニーがステアリングを握り、私がコ・ドライバーとして出場することになっていたのだが、彼が参加を取りやめたため私のエントリーも宙に浮いたのだった。それ以来私の頭はラリーのことでいっぱい。だから昨年12月のル・ジョグに出ないかという話があったとき、一発で乗ったというわけだ。

ル・ジョグはランズエンドからジョン・オグローツまで、英国を南北に縦断する約1500マイル(2400km)に及ぶ厳しいイベントである。日中で4日、夜間も3日、すなわちほとんどぶっ通しで4日間走り、その間つねにレギュラリティー(編集部註:一定の区間を決められた時間で走り、いかに正確に走ったかを競う競技)が求められ、スピードの上限もチェックされる。こうしたものが23回も用意されており、それがル・ジョグはタフだという評判を確立、遠くオーストラリアやアメリカからもタフさを求めて参加者はやってくるのである。こんなヒストリックカーによるレギュラリティー・ラリーは、世界広しといえどもここだけだろう。参加者は常連がほとんどで、ルーキーでの参加は私くらいだ。
 
私はまず、サウス・ウェールズ州のマーガムにあるHEROという主催者を訪ねた。ここではりっぱなアルファロメオからTR4、ポルシェ911まで完璧に準備されたラリーカーを貸し出してくれる。私もここで1972年型のBMW1602を借りることにした。BMWは賢い選択で、室内は広く、快適で視界もいい、そんなところがタフな耐久イベントにうってつけだとそこのマネジャーが言ってくれた。ヒーターがちゃんと効くことも大切な要素である。

ル・ジョグは参加する車の製造年とエンジン排気量によって9つのクラスに分けられる。私は3Aクラスでの参加となるが、競技の内容はどれも同じ。厳しさも同じだ。女性のラリー・ドライバーでチャンピオンにもなったことのあるセレン・ホワイトは私にこうアドバイスしてくれた。何より慣れることが大切だと。

彼女は以前ル・ジョグでクラス優勝を果たしているだけにその言葉には重いものがある。「できるだけ寝て
食べること。充分に水分補給しておくことも大事ね。でもエナジードリンクはダメよ。へたに飲むと終盤足にきて幻覚を見るようになるの」 彼女の場合は紫色のバナナだったそうだ。そのときは競技を続けるのも困難だったそうだが、俳優という職業を生かして、言葉がしゃべれなくなってもパントマイムを駆使して困難を乗り切ったのだという。

コーンウォール州に旅立つ前日、私はBBCラジオ2のサイモン・マヨ・ショーという番組にゲストとして招かれた。マット・ウィリアムスとル・ジョグについて語るためである。アメリカでプロ野球選手だった彼は、ルートの過酷さとクレージーなスケジュールにあきれ果てていた。「そんなに体を酷使して運転したら危険じゃないの?」と心配するので、私はあちこちで休憩するから大丈夫と答え、彼と700万人のリスナーに安心してもらった。水分補給の重要性も伝えた。私だって紫色のバナナなど体験したくないもの。

編集翻訳:尾澤英彦 Transcreation:Hidehiko OZAWA Words:Tony Jardine 

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