当時はトップモデル フェラーリ F50の底力を見直す

Photography:Paul Harmer

F50は1995年当時フェラーリのトップモデルであったが、評論家は必ずしもそう評価しない。マーク・へイルズはF50と再会し、その底力を見直すという希少な経験を得た。

私がF50のステアリングを握った回数は、エンツォやF40より少ないが、そのたびにこのマシンに対する評価で混乱した。こうした特別な車の印象は、それをどこで走らせるかによって違うものだ。またセットアップによってもだいぶ異なると誰もが口にするが、それも確かに一理ある。F50の初めての試乗は公道のみ。姉妹誌『Evo』のカー・オブ・ザ・イヤー審査のわずかな時間であった。だが、クリス・ハリス氏がMCを務めるYouTubeチャンネル『/Drive』の撮影でサーキットを走る機会に恵まれた。

公道での走行は1、2時間のものだったが、それでも非常に長く感じたという。そのときのメモにはこうある。

「大き過ぎて、しかも不必要に重過ぎる。幅が広すぎ、サウンドも過度である。実際のところ、3度目に激しく地面にたたきつけられたところでサジを投げた。それは路面も速度もごく普通の環境でのことだった。さらにラウンドアバウトで加速した時には、フロントがリフトして膨らみ、スロットルペダルを戻した途端にテールがはじかれた。しかも濡れた路面を走るようなゆっくりとした速度でそれは起こったのだ。とにかく見当違いの高過ぎる代物」。この表現を『Evo』誌がそのまま使ったとは思えない。なにしろその前号では、F50は史上最高のモデルだと紹介していたのだから。

F50を久しぶりに走らせたのはアングルシー・サーキットだった。エンツォがあれほど情けなく思えた厳しいコースだ。だが驚いたことに今度は『Evo』誌のF50の高い評価に心から賛同することができた。ずっとF50 に乗っていたいと思ったほど、好印象を得たのである。パワーアシストの備えがないステアリングは重いものの、優れたフロントエンドの制御感はやみつきになるほどで、F40で後ろから追い掛けてきたハリスは、ターンインで引き離されるのをとても悔しがっていた。ただし、そんなF40も、コーナー出口で一旦ターボが目覚めればすぐ追いついてくるのだが。

操作感が素晴らしかったのはF50のステアリングだけではない。オーナーが警告していた通り、やや違和感を覚えるシフトゲートであったが、慣れれば実に素早く正確なフィールを楽しむことができた。

以前はあれほど煩いと感じたエンジンサウンドも、このときは最高だった。エンツォの650馬力V12も確かに胸躍るものだったが、少しばかり耳障りだと思う。4. 7リッターと排気量の小さいF50のエンジンのほうがより"重層的" で、高音を完璧に支える低音の厚みには病み付きになる響きがある。これは思い切りスロットルペダルを踏むことのできるサーキットならではだが、こうした好印象を得たのは、エンジン音やステアリングのフィーリングにうるさい私だけではないはず
だ。



フェラーリ社もエンジン音は非常に重要だと明言しているが、それは実に正しい。だが、いったいなぜ、走らせた場所によってこれほど印象が違ったのだろうか。一番考えられる原因はセットアップだ。おそらく最初のF50はウェールズの道路では車高が低過ぎたのだろう。その上、道幅が狭かったからだ。

だが、自由に振り回すことのできるサーキットでは心構えも違ってくる。ステアリングと格闘することも気にならず、エンジン音も楽しめる。コース幅も広く、車幅の広い左ハンドル車であっても、対向車を心配する必要もない。それにしても、公道でなぜあれほど動きを重く感じたのかは、いまだに分からない。サーキットではまったく車重が気にならなかったほど軽快であったのだ。

F50はちょっとした謎をもつマシンだ。それは、ほかのモデルのような"行き過ぎた"フィールや、人を驚かせるようなギミックに欠けるからかもしれない。車両重量1230㎏でありながらF50のエンジンは比較的小さく、生み出すパワーも"わずか" 513bhpだ。F40のエンジンも2. 9リッターと小さいが、あちらは低回転時に巨大なトルクを加えるターボを2 基備え、車重は約1100㎏と軽い。しかもデビューは1987年であり、当時これほどのハイパワーを誇るのはアメリカの限られたビルダーのものくらいだった。

過去は美しいという証拠かもしれないし、ただの判官びいきと言われても仕方がない。それでも、F50と再会できたことを私は非常にうれしく思うのだ。

F50の誕生から20年近くになる。F40ほどではないとしても、そのパフォーマンは荒々しく魅力的である。

編集翻訳:堀江 史朗 Transcreation:Shiro HORIE 原文翻訳:木下 恵 Translation: Megumi KINOSHITA Words: Mark Hales

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