世界最古のキャラクター、ミシュラン・ビバンダム

世界最古のキャラクター、ミシュラン・ビバンダム(Photography and Words: Tomonari SAKURAI)

ビバンダムは車の世界のキャラクターとしてもっとも知られた存在だろう。1898年、19世紀の生まれだ。企業キャラクターとしても世界初のビブは、現在も活躍し続けている。ビブを眺めながらその時代のモータリゼーションを想像してみた。

現在、日本は世界に誇るキャラクター天国だ。そのキャラクターの元祖をたどるとフランスのタイヤメーカー、ミシュランにたどり着く。1894年にリヨンで開かれた国際博覧会で、積み上げられたタイヤを見たミシュラン兄弟がタイヤを擬人化するアイデアを思い付き、1989年にポスター画家であるオガロによって描かれたタイヤ人間だ。

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その時は名前を持たなかったが、ラテン語で書かれたコピー"Nunc est Bibendum!"「今こそ飲み干すとき!」からこのキャラクターはビバンダムと呼ばれることになった。彼こそが世界最古の企業キャラクターといわれている。

誕生から100年を超えるビバンダム、通称ビブ。そのキャラクターは車や時代背景で変化を遂げ、今でいうキャラクターグッズが数多く登場した。そのこともビブが100年以上も愛されることになったのだろう。誕生したときのビブの出で立ちは、葉巻に鼻眼鏡というもので、オペラを鑑賞し、舞踏会に出かけたりしていた。

ミシュランは、ガイドブックを1900年に初めて発行している。赤いカバーのそれは現在でも変わらない。ご存じのように、現在ではレストランの格付けの世界基準となるまでになったガイドブックだが、その刊行の意図は、普及が始まったばかりの自動車に乗る人のためのガイドだった。フランスは自動車の工業化では先駆者だったが、20世紀に入っても国内を走る車の数はまだまだ少なかった。したがってガソリン補給ができる場所、修理できる工場やなども限られ、簡単に見つかるわけではなかった。それらに加え、タイヤの交換など簡単な修理の方法、車を販売している場所、もちろん宿やレストランの紹介なども合わせて紹介することで、車を使う人のための手引き書として当初は無料配布したのである。車が増えればタイヤの需要も増すというわけだろう。

このガイドブックの案内役にビブが多用されている。そのビブの姿を見るだけでもこのガイドブックには価値がある。

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ミシュランガイドに掲載されたレストラン向けのメニュー。この用紙を元に各レストランでメニューを書いて使ってもらおうというもの。1900年代



20世紀を迎えてすぐの広告から。上の絵がビバンダム誕生のポスターと同じ絵柄のもの。中央にガラスの破片や釘をグラスに注いで乾杯の格好をとるビブ。その脇には怖じ気づいた他社のタイヤマンがいるという設定で、ミシュランのタイヤはパンクに強いということのアピールだ。この広告はミシュラン製のゴムで作られたトレーニング用品。当時はタイヤだけではなく、あらゆるゴム製品を展開していたことがわかる。



1900年代のエアゲージ。シンプルなエアゲージだがそのブリキの缶が美しい。六面全てのイラストが違う。蓋以外はビブのイラストがある。


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ミシュランのアクセサリーカタログ。その使い方などビブのイラスト満載の冊子。1910年代



イタリアミシュランのカタログ。リトグラフ印刷の手の込んだものだ。1913年11月発行。



1910年代のアメリカでの店頭用フィギュア。本体はオリジナルだがリペイントされている。



ラジエターキャップ代わりに付け替えることができるカーマスコット。ミシュランがオフィシャルで制作したカーマスコットはいくつかあるが、このモデルがもっとも代表的なもの。(写真はレプリカ)



1910年代。ミシュランタイヤの顧客のオフィスに合うよう鼈甲をベースにした卓上時計。



時計のペアとなる卓上カレンダー。悪魔がビブをパンクさせようとしてもびくともしない、というイラストが鼈甲に刻印されている。卓上時計に比べて数が少ないレアもの。



トラベル時計。鼈甲の卓上時計と同年代だが電動式だ。



葉巻を愛用するビブにはオイルライターも。葉巻に火をつけるビブがレリーフとなっている。



最初にビブに起こった変化は1927年だ。この年に喫煙は健康に害があるといわれはじめ、ビブも禁煙する。それ以降ビブの葉巻姿は見られなくなる。あわせてこの頃からビブは庶民的な愛らしいスタイルになっていった。

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1920年代の冊子。"陽気なビバンダム"というタイトルで様々な格好をするビブのイラスト集。1990年代に復刻版が出たがこれはオリジナル。



1920年代のパンク修理セット。ブリキの缶にビブが治療されているイラストが描かれている。中にはスペアのチューブや、パンク修理の道具が入っている。それらの小箱などにも皆ビブが描かれている。写真のブルー地のものと茶色のものがある。



ベークライトの灰皿に用いられているビブのフィギュアと同じスタイルの英国ミシュランの卓上カレンダー。



このプレートのビブはストーブに当たりながら暖をとるビブのレリーフ。1920年代ミシュランの工場で使用された薪ストーブに取り付けられていたもの。ビブは単に広告としてだけでなく、一般の目が届かない社内、工場内にも多く使われていた。ミシュランのビブに対する扱い方が垣間見られる。


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1930年代、ミシュランはゴム製品の中で子供向けにボール、鞠も生産していた。その業者向けの資料の挿絵にはビブの男の子と女の子がその鞠で遊ぶイラストが。


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1900年代から1930年代までガレージで使用されたハンディコンプレッサー。ビブが空気を吹き込んでいるような鋳物のフィギュアが愛らしい。中央がごく初期のもの。左右の2台は同様に見えるがビブの形状がやや違う。型が違うので首や腕の角度が異なる。このコンプレッサーだけでも数種類ある。



第二次大戦が終わると、今までは印刷物のほかはブリキやベークライト製が主だった販促品の多くがプラスチック製になり、立体的なビブのキャラクターグッズが一気に増え始めた。また、車が大衆の間にも普及しはじめたことから、ビブのスタイルもより庶民的に変わっていった。フランス国内でも地方の民族衣装をまとったり、車、バイクに自転車に乗ったりと、もっともバリエーションがある時期だろう。

ビブが"トラックの守り神"になったという逸話がある。それは、1970年代のあるときのフランスでのことだ。荷物を満載したトラックが雪道でスタックして立ち往生し、車を離れれば盗難に遭って当然の状況に陥った。ドライバーは積み荷を心配しつつも、助けを呼びにその場を離れ、助けとともにトラックに戻ってみると、積荷は無事だった。そのトラックには、ビバンダムのフィギュアが取り付けられていたため、ビブは"トラックの守り神"となった。現在でもトラックにビブを取り付けているのを見かける。そんな逸話がビバンダムをより一般的な存在に広げていった。

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修理工場やミシュラン取扱店の店頭に取り付けられたフィギュア。1950年代のもので、この樹脂製のフィギュアでは初期型と言われている。



こちらも1950年代の店頭用のフィギュアであるが英国ミシュランのもの。樹脂ではなく木材を粉末にして固めた材料で作られている。



ガイドブック用の店頭用フィギュアで主に書店で使用された。電飾が内蔵されているものと、されていないものと、外観は変わらないが2種類がある。



1950年代のペンスタンド。フランスらしくブドウ狩りのスタイルをとっているビブ。


[ 70’s ]

1970年代のソノシート。スペイン向けのもの。曲に合わせた出で立ちで演奏するビブのバンド。



1980年代、日本のバブル経済を迎えると、ビバンダムがキャラクターとして認知され、それを境にミシュランもビバンダムの重要性を再認識し、今のスリムで首のあるビバンダムとなった(古くからのビブファンには不評なのだが)。この時期には、パリのオペラ座界隈にビバンダムのキャラクターショップともいえる、ミシュラン・ブティックがオープンして人気を博した。ただし、ミシュランの内部では「あくまでもミシュラン社の製品はタイヤである」ということから、キャラクターには注力されず、このブティックも残念ながらなくなってしまった。それでもビブというキャラクターは、現在でもレース会場などでも見かけられ元気に活躍している。

ビブのコレクションからはその当時のビブの移り変わりが見られるだけでなく、先述したようにこのビブを通じて、当時のモータリゼーションをも垣間見ることができる。数あるコレクションの中から、今回は代表的なものから、ミシュランがいかにキャラクターを大事に扱っていったかがわかる貴重な物まで、ごく限られたページの中でできるだけ多く紹介しようと試みた。このコレクションはビブを集めて20年以上になる山本氏のプライベートコレクションで、世界トップレベルのクォリティがある。ビブの世界を通して車趣味の奥深さを感じていただければ幸いである。

[ 2000 ]



2000年を記念してミシュランの星を持つフランス国内のレストランに送られた陶器のビブ。日本で正規に入ってきたのは5体のみだった。

コレクター:山本則篤 Collector: Noriatsu Yamamoto 写真・文:櫻井朋成 Photography and Words: Tomonari SAKURAI

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