輝きを取り戻したルビー色のフェラーリ│注目されなかった1台のいま

Photography: Michael Bailie



ルッソのデザインはピニンファリーナによるものだが、製造はカロッツェリア・スカリエッティが担当した。非常にスタイリッシュなモデルであり、センターセクションとサイドライト下の左右のオーバーライダーに3分割されたフロントバンパーが特徴的だ。エンスージアストの中にはルッソのデザインがやや凝り過ぎだと評する人もいる。確かに、装備を省いたロードレーサーに比べてちょっとクロームメッキが多く、飾り立てすぎのようにも思える。だが、エレガントなグランドツアラーであることは明らかで、鳥のくちばしのような低いノーズからキックアップしたカムテールに至るまで、優美なプロポーションには非の打ち所がない。

エンジンはコロンボ設計のショートストロークの60度V12、気筒当たり2バルブのSOHCである。排気量は3ℓなので一気筒では250cc、それゆえにフェラーリの用語法では「250」となる。当時の公称最大出力は240bhp/7000rpm、最大トルクは192lb-ft/6000rpmという高回転型である。このエンジンもリンクスでリビルドされた。現代の部品を使いながら標準スペックに組み上げられたV12は、メイストン-テイラーによれば正味で230bhpを生み出しているという。


 
フレームの奥深く搭載されたV12エンジン
はそれ自体工芸品のように美しい。黒い結晶塗装のカムカバー、中央に連なったウェバー・キャブレター、鮮やかなオレンジのオイルフィルター、もちろん2基のディストリビューターとコイル、そしてフィアムのエアホーンも当然備わっている。この車にはフェラーリのシャシープレートの隣にフランスのシャシーナンバープレートも残っている。

キーを回して押し込むと、フェラーリ独特のスターターモーターの唸りに続いて、V12に火が入ったどよめきが聞こえる。3基のツインチョーク36DCSウェバーが燃料を送り込み、すぐにスムーズに回り始める。フェラーリV12の叫びはまさしく聴く価値のある音楽だ。熟練のエンジニアが緻密に組み合わせた無数の部品がボンネットの下で忙しく、規律正しく働いている。ルッソもきっとそれを聞いてもらいたいと思っているはずだ。

スロットルは、クラッチやギアシフトと同様に多少動きが硬いが、フェラーリは簡単に滑り出した。各コントロールはリニアなフィーリングですぐに慣れるものだが、現代のパワーアシストに慣れたドライバーは、昔使った筋肉を思い出さなければならないだろう。フェラーリはエンジンを回さなければいけないという思い込みは間違いだ。回転が上がるにつれてパワーは着実に増すが、低回転でのトルクも十分で、ルッソはごく滑らかに走る。サセックスの村々をゆっくりと通り抜ける際にも扱いやすかった。平均的な体格のドライバーにとってドライビングポジションは良好だが、足が長い人にはペダルが近すぎるかもしれない。

高い位置にあるステアリングホイールはウォーム&セクター式でレシオも遅く、ラック・ピニオンほどシャープではない。サスペンションは60年代フェラーリの標準的形式だ。すなわち、フロントはコイルスプリングによるダブルウィッシュボーン、リアはリーフスプリングと補助コイル、それに2本のラジアスアームを使ったごく普通のリジッドアクスルである。

開けた田舎道に入るとフェラーリも鋭さを増す。エンジンは荘厳な音を奏で、力強さがみなぎってくるが、強力無比というほどでもない。その美しい操作系や素晴らしい雰囲気はランチア・フラミニアを彷彿とさせるものがあり、ギャップを越えた際のリアアクスルのドシンという動きはアルファロメオ・ジュリアに似ているとも言える。

ルッソにはガーリングのサーボ付き4輪ディスクブレーキが備わり、十分な制御能力を発揮してくれたが、他の操作系同様、それなりに力強く扱わなければならない。片側二車線の広い道に入って3速にシフトダウンすると、引き綱を外した犬のように駆け出した。組み上げたばかりの新しいエンジンゆえにリミットまで回すことはできなかったが、回転が高まるにつれ、パワーはとめどなく湧き出してくるようだ。もちろん、グッドウッド・リバイバルにフェラーリで出場したデレック・ベルが語ったように、トップエンドに存在する真のパワーを引き出すには、思い切って回さなければならないのだろうが、それは8000rpmぐらいの高みにあり、今回は諦めざるをえない。

トップギアでちょっと飛ばすと、存在しない5速ギアが欲しくなる。このルッソは4段ギアボックスを備えた最後のフェラーリの一台であり、多くのオーナーは5段に換装しているが、メイストン-テイラーはオリジナルのままに留めている。いずれにせよ、我が英国では145mph(233km/h)と言われる最高速は非現実的である。確かに高速道路ではちょっとうるさいが、そのメカニカルノイズも味わい深いものだ。一部のピューリタンは、ルッソは重すぎるし、エンジンが前方に搭載されているために250SWBほどバランスは良くないと批判するかもしれない。なるほどそうかもしれないが、ドライバーがそれを理解していればアンダーステアは過大ではないし、「250bhpエンジン」はルッソに十分すぎるほどのスピードを与えてくれる。豪華な内装が多少の重量を増していることは疑いないが、ボンネットやドア、トランクリッドはすべてアルミ製だ。

編集翻訳:高平 高輝 Transcreation: Koki TAKAHIRA Words: Robert Coucher 

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