レーシングカーの走りとショーカーの美しさの「奇跡の共存」|アルファロメオ・スーパーフローIV

1953年アルファロメオ・ティーポ6C 3000CM(Photography:Charlie Magee)

アルファロメオ・スーパーフローIVは、レーシングカーとして生を受け、その後ショーカーに生まれ変わった。この美しい車の秘密を解き明かす。

ほとんどのコンセプトカーは見世物にすぎない。エンジンを載せていないことさえあり、たいていは駆動系もないに等しい。だが、このアルファロメオ・ティーポ6C 3000CM"スーパーフローIV"は違う。ピニンファリーナによる見事なスタイリングに目を奪われるが、単に美しいだけの車ではないのだ。

先行のディスコ・ヴォランテ("空飛ぶ円盤"の意)から進化した3000CMは、1953年シーズン用のレーシングモデルだ。CMはコンペティツィオーネ・マッジョラータ(Competizione Maggiorata:"排気量拡大版レーシングカー"のような意)の頭文字で、オリジナル6C 3000 C50の直列6気筒DOHCエンジンをベースに、排気量を3495ccに拡大して搭載。バックボーン構造のスペースフレームに、フロントは独立式、リアはド・ディオン式サスペンションを組み合わせた。ボディを製造したのはカロッツェリア・コッリで、実戦向きのエアスクープやむき出しの給油口やリベットを特徴としていた。3000CMは、クーペ4台、スパイダー2台の合計6台が製造されたが、写真の車はその1台なのである。

ミッレミリア、ファンジオの妙技、その後
アルファのワークスチームは、1953年のミッレミリアに3台の3000CMをエントリーした。そのうちシャシーナンバー0124が、フアン・マニュエル・ファンジオとジュリオ・サラのドライブで2位という好成績を収めた。ファンジオはトップを走行中に、道路脇の標石に接触。タイロッドエンドを傷めて、ステアリングホイールで操作できるのは実質的に片側1輪だけという状況に陥った。それにもかかわらず、フェラーリ340MMに次ぐ2位でフィニッシュを果たした。3000CMは同年のル・マンにも出走したが、完走はならなかった。

しかし、知名度が低いスポーツカーレースながら、メラーノで開催されたスーペルコルテマッジョーレではファンジオが優勝した。レース活動を終えたあと、3000CMは放出されて散り散りになり、1台はアルゼンチンの元大統領フアン・ペロンの手に渡った。今回取り上げるシャシーナンバー0128は、これからお話しするように、"波瀾万丈の余生"を送り、長年、ロッソ・ビアンコ・コレクションに収蔵されていたが、2005年に売却された。

レースカーからショーカーへの転身
0128は、1953年ル・マンではスペアカーだったと考えられている。ル・マンの後、しばらくのあいだアルファのワークスチームで埃をかぶっていたが、イタリア自動車産業を象徴するドリームカーとして"再創造"されることとなり、ピニンファリーナに送られた。こうして誕生したのがスーパーフローIで、1956年のトリノ・モーターショーで発表された。サイドに青いラインの入った白いボディに、控えめなテールフィンを付け、フロントフェンダーは透明なアクリル製。ラップアラウンドのウィンドスクリーンとアクリルガラス製のガルウィング式ルーフパネルを組み合わせていた。

第2弾のスーパーフローIIは、半年後のパリ・サロンに登場。ここでは0128は赤に白のストライプにペイントされ、フロントフェンダーは通常の金属製に戻ったが、テールフィンはアクリル樹脂によって拡大された。さらに1959年3月には、ジュネーヴ・モーターショーにスパイダー・スーペルとして登場する。ボディは白一色で、ウィンドスクリーンはラップアラウンドではなくなり、ルーフとテールフィンも消えた。このデザインに着想を得て誕生したのが、1966年のアルファロメオ・デュエット・スパイダーだ。そして最後のデザインとなったのが、1960年のジュネーヴ・モーターショーで発表されたスーパーフローIVで、それを今ご覧いただいているのである。

編集翻訳:伊東和彦(Mobi-curators Labo.)Transcreation:Kazuhiko ITO(Mobi-curators Labo.) 原文翻訳:木下恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words:Robert Coucher Photography:Charlie Magee 取材協力:スティーブ・ティラック(www.tillackco.com)、イーゴン・ツヴァイミュラー(zweimullercars.com)、ジム・ストークス(www.jswl.co.u

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