スーパースポーツカーの概念を打ち崩した1台│ブガッティ EB110

Photography:Paul Harmer



撮影のための借り出したEB110は最高出力611psのSSで、かつてアルティオーリ自身が所有していた車だ。かつての衝撃は時間とともに和らぎ、そのデザインに否定的だった人も今なら許容できるのではなかろうか。デビュー時は大きく感じられたEB110も、今ではそうでもない。フェラーリ458イタリアよりも全長は130㎜ほど短く、全幅が2㎜ほど広いだけだ。

跳ね上げ式のシザーズドアからドライバーズシートに乗り込むと、思いのほか快適なシートに驚く。コクピットはタイトで、メーター類はすべてドライバーズシートから見える。インテリアにはエクステリアのような衝撃はなく、どちらかといえばオーソドックスな雰囲気をといえよう。車内からドアを開けるレバーがアームレスト内に隠されているのは使い勝手が悪いが、これはご愛嬌だろう。



エンジンはスタートボタンではなく、キーを捻って始動させる。ドライバーの背後に置かれたV12エンジンが荒々しく目覚めると思いきや、静かに唸る程度だ。恐る恐るクラッチを繋いでも、拍子抜けするほどジェントルだ。スーパースポーツカーにありがちな異音は皆無で頼もしい。荒れた路面もしっかりと往なすサスペンションによって、常識的な速度域での運転は快適と呼べるほどリラックスできる。"クワッド"ターボで最高出力611psを誇る、20年以上前のスーパースポーツカーから想像される気難しさはない。ギアチェンジはしっとりスムーズで、ロック・トゥ・ロックがわずか2.8回転のパワーステアリングも決してナーバスではない。

ターボが効き始める4000rpmからがEB110の見どころだ。4基のターボが効く様が音から伝わってくる。EB110は文字通りドライバーがシートに押し付けられる加速をする。しかも、4000rpmから息継ぎする間もなく、永遠にワープするかのようだ。"死ぬほど速い"といいたくなるが、危うさは感じない。フルタイム4WD、ミシュランの専用タイヤのおかげでひたすら安定している。ターボが効いている回転域でも、気難しさはない。デビュー当時、「洗練され過ぎている」と批判めいた試乗記があったが、それが悪いことなのだろうか。

なぜEB110は売れなかったのか。「アルティオーリが商売人というよりも夢追い人と化した」という指摘もある。だからこそ、あのスタンザーニやガンディーニと衝突しただけではなく、サプライヤーとも頻繁にぶつかることがあったと関係者は語る。だが、そのくらいの気概がないとスーパースポーツカーブランドの復活はできなかったであろう。EB110が誕生した時期には、日本でバブル経済が崩壊し、世界で金融不安が起こった。これでマーケットは急速に冷え込み、EB110の将来が奪われた。



また、マクラーレンF1の存在も決して否定できないだろう。F1で華々しい戦績を収めていた頃であり、保守的なエンスージアストが新参者のEB110ではなくマクラーレンを支持したのは間違いない。また、マクラーレンの完成度は格段に高かった。今日のヒストリックカー市場では、マクラーレンF1の取引価格は10億円を超えていることがその証拠だ。これではEB110が10台ほど買えてしまう。マクラーレンF1はたしかに優れた車ではあるが、EB110よりも10倍も価値があるとは思えない。

抜群の安定感のなかで強烈な加速を味わうこ
とができ、スーパースポーツカーらしくない洗練さを備えているEB110はもっと高く評価されるべきである。同時期のライバルは速さのなかに危うさが同居していたが、EB110は違う。よく考えてみれば、最近のスーパースポーツカーの傾向に似ている。EB110をドライブしていると、このままずっと運転し続けたくなる。

EB110はたとえブガッティのエンブレムを備
えていなくとも、今なお評価できる。アルティオーリが想いは時代を先取りし過ぎたのかもしれない。

編集翻訳:古賀貴司 Transcreation:Takashi KOGA Words:Richard Heseltine 

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