本物の体験│新旧シェルビーを乗り比べしてみる

Photography: Winston Goodfellow

ライターのウィンストン・グッドフェロウは現代のシェルビー・マスタングを手に入れたばかり。そして疑問を抱いた。「オリジナルのGT350との違いは何なのだろうか?」


「ブリットとシェルビー。マスタングと掛け合わせるべき言葉といえば、このふたつくらいのものです。スティーヴ・マックイーン主演の映画"ブリット" はマスタングが登場する派手なカーチェイスシーンで有名になりました。そしてシェルビーは、どんなに想像を膨らましてもおよばない、もはや伝説的といって差し支えないブランドとして名を馳せています。そのうち誰かがきっと映画を作ることになると思いますよ」



フォード・デザインのトップであるJメイズから聞いたこの言葉に、大きく心を揺り動かされたのは数カ月前のこと。2007年モデルのシェルビーGTを手に入れたばかりの私は、以来、彼が言わんとしたことについて悶々と思い悩む日々が続いた。1970年から2005年まで実に35年もの間、シェルビー・マスタングが生産されることはなかった。私は往年の本物のシェルビーにはまだ触れたことがない。語れるのは、現代のシェルビーについてのみである。果たして、メイズが繰り返し主張したとおり最新のシェルビーはかつての伝統を正しく継承しているのだろうか?それとも、私が子供の頃に抱いた純粋な憧れの思いは、巧妙なマーケティング活動によってねじ曲げられてしまったのだろうか? 私は7日間で1500マイル(約2400km)を旅することで、何かしらの答えを導き出すことに決めた。

ギャラリー

初期のシェルビーは1965年から69年にかけて合計1万3300台余りが生産されたが、アメリカでは、それらは神話上の伝説とほぼ同列で語られている。ボディ・タイプにはファストバックとコンバーティブルがあり、その第一作目であるGT350から、"キング・オブ・ザ・ロード"と称されるGT500に至るまで、様々なV8エンジンが搭載された

それでは"実体験のあるシェルビー"と"実体験を伴わないシェルビー"を比較するならば、どのモデルを選ぶのがいいのだろうか? さらにいえば、本当に価値のある見解とともに、どちらが優れているのか、その判断を手助けしてくれるのは誰なのだろうか?



私はまず65〜66年に製造されたGT350を選ぶことにした。なぜなら、これこそがもっとも"ピュアなシェルビー"だと考えたからだ。このモデルは当初、南カリフォルニアにあるヴェニスのプリンストン・ドライブ1042番地に建てられたシェルビーの工場で、ごく少量が生産された。その後、ロサンゼルス空港に近いウェスト・インペリアル・ハイウェイ6501番地の格納庫に工場を移し、GT350の大半が世に送り出されることになる。

1965年、もっともパワフルなマスタングは271bhpの最高出力を生み出した。ブロックとヘッドに鋳鉄を用いた排気量4.7ℓのV8は1気筒あたり2バルブだが、シェルビーはこれにアルミ製のインテークマニフォールド、大径のホーリー・キャブレター、フィン付きのアルミ製オイルパン、軽量なエグゾーストマニフォールド、そして後輪直前のボディサイドから排気するテールパイプなどを与えた。この結果、6000rpmで306bhpを発揮するパワーを獲得。あわせてクロスレシオの4速ギアボックス、ギア比を速めたステアリング、強化されたアンチロールバー、コニの減衰力調整式ダンパー、そしてデトロイト・ロッカー製LSDなどを"ポニーカー" に搭載したのだ。

65年製のGT350はすべて白のボディにブルーのストライプがあしらわれていた。私はこのカラーリングに惹かれて現代のシェルビーを購入したにもかかわらず、2007モデルのシェルビーGTにはシルバーのストライプしか用意されていなかった。そこで私はディーラーに依頼し、伝統に根ざしたブルーのストライプにこれを変えてもらったほどである。

フォードが作る現代のスモール・ブロックは排気量4. 6ℓのV8で、アルミ製ヘッドには1気筒あたり3つのバルブが組み込まれ、鋳鉄ブロックと組み合わされる。シェルビーはこれに吸気温度を低下させるための工夫を施すとともに、専用の排気系、ECUチューニングなどを与え、最高出力を300bhpから319bhpまで引き上げることに成功。そのほか、ギアボックスはストロークの短い5速MTに換装されているほか、前後のサスペンションは強化され、エンジンルームにはストラットタワー・ブレースが組み込まれている。また、ボンネットやドアの後方にはエアスクープが追加されているほか、フロントグリルは専用デザインとなる。



私は南カリフォルニアに点在するシェルビーゆかりの“史跡”を巡り、ごく初期のGT350を操ることで、シェルビーの実像に迫る旅に出ることにした。貴重なGT350を提供してくれたオーナーはスティーヴ・ベックで、彼には「実体験あり/なし」を選ぶ際の助言もあおぐことにした。旅の終着点はラスヴェガスに建つシェルビーの生産施設。彼らは1990年代の半ばからここに本社を置いてきたのだ。

南カリフォルニア出身のベックは自動車整備業で成功した人物で、No.258のGT350のほかにもう1台のシェルビーを所有している。
「僕の身体には古いシェルビーが染みついているんだ」とベック。「このGT350を手に入れて、かれこれ30年以上になるね。シェルビーは時々ニューモデルを出して『古いモデルよりこっちのほうが絶対にいい』なんていっているけれど、新しいモデルにそれほどいいものなんてない。このブランドの基礎は、古い時代にもう築かれていたんだよ」


「あのGT350は900ドルで買ったんだ。いろいろ手を掛けて修理してからは、スラロームやジムカーナで楽しんだり、毎日の通勤に使っている。週末にはレースに出ることもあるけれど、それで壊して、また直しての繰り返しさ。そんなことを、もう30年以上もやっているよ」

ベックのシェルビーは美しい輝きを放っているが、それはエンスージアストらしい楽しみ方を満喫してきた30年以上の歳月を反映するものといえる。また、彼はメカニカル・コンディションのチェックも念入りに行っており、エンジンの最高出力はいまや475bhpに達しているそうだ。

編集翻訳:大谷 達也  Transcreation: Tatsuya OTANI Words and Photography: Winston Goodfellow 

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