「卵」の愛称で呼ばれた先進的なフェラーリ|166MMがこの形になった理由

1950年フェラーリ166MM/212エクスポート Uovo フォンタナ製ボディ(Photography:Remi Dargegen)

マルゾット兄弟がリメイクした1950年フェラーリ166MMの先進的なスタイルは、10年先のレーシングカーを予言するものだった。マッシモ・デルボがUovo─卵の歴史を解き明かす。

1950年、イタリアはまだ敗戦から立ち上がるのに必死で、厳しい状況はまだ何年も続きそうだった。だが陽気なイタリア人の目には希望に満ちた未来が広がっていた。経済の車輪は再び回りだし、若い起業家は、商品を作れば市場は受け入れる準備ができつつあることを感じ取っていた。エンツォ・フェラーリもそう信じていたひとり。自分が作った車が顧客のハートに火をつけられればすべてがうまくいく、と。

マルゾット兄弟を知っていますか?
実際、人生を楽しむために金を使いたいと思う裕福な人たちはいたが、せいぜい映画『甘い生活』で描かれたような退廃的な生き方に落ちていくのは明白だった。だが、レースの世界は違った。スピードに酔いしれる若者にとって、それはあこがれの的であり、マルゾット兄弟もレースに夢中だった。マルゾット家は1世紀以上にわたって業界を支配してきた紡績王。単に経済力というだけでなく、それ以上のところまで掌握していた。正式な職業にはしていなかったが、広大な土地を収める不動産王だったのだ。エンツォ・フェラーリはそのことをよく知っていた。そしてこの種のジェントルマン・ドライバーこそが彼の会社にとって活力の源であることも承知していた。事実、4人のマルゾット兄弟は皆が皆、フェラーリの顧客だったのだが、中でもジャンニーノとウンベルトはドライバーとしても才能があって、フェラーリ所属のドライバーと肩を並べるくらい速かった。もちろんフェラーリの初期の顧客の中では飛び抜けた才能の持ち主だった。

ジャンニーノ・マルゾットとエンツォ・フェラーリは1948年に出会った。ジャンニーノはまだ20歳の若さだったが、マラネロ工場で作られた4番目とされている2リッタークラスのGTのオーナーになった。このことは、気むずかしいエンツォがなぜ若いマルゾット兄弟がなれなれしく近寄ってくるのを拒まないか、ということの説明にもなっている。当時の顧客の中でもマルゾット兄弟は特別の存在で、短期間のうちに20台ものフェラーリを購入したのだ。彼らは購入するたびにナンバープレートや車両登録証をごまかしたりしていたのだが、こうした行為が今日のフェラーリ研究家にとって、彼らが所有した車を追う際に頭痛のタネとなっているのもまた、事実である。

166MMが「卵」に変身するまで
ここに1950年166MM/212エクスポート(シャシーナンバー024/M/B、エンジンナンバー024/M)がある。1950年2月2日、166MM/49ツーリング・バルケッタとして世に出た車だ。シャシーとブレーキのスペックはMM49であるが、ウェバー36DCFキャブレター、5段ギアボックス(型式ナンバー013)は、F2カーで使用されたものを再整備して搭載した。

ただ2月13日にイタリア、ヴァルダーニョにあるスクーデリア・マルゾットに納車された際に付いてきた、ウンベルト・マルゾット宛ての納品書には166MM/50と記されていた。レースデビューは4月2日のタルガ・フローリオで、カーナンバー445を携えて出場したものの、クラッチトラブルで途中棄権、初陣を飾ることはできなかった。車はすぐさまマラネロに送り返され、ただちに修理された。4月23日のミッレ・ミリアが迫っていたからである。650番のナンバーを付け、ウンベルト・マルゾット/フランコ・クリスタルディの操縦で参加した。しかし、ペスキエーラ・デル・ガルダでひどいクラッシュ事故を起こしてしまう。ボディが真っ二つに裂けてしまうほどの激しいクラッシュだった。

それから2〜3カ月がたった頃、1950年7月21日付けの納品書(番号231/50)が発行された。それは、シャシー修復に関する細かい明細がフェラーリによって記された見積書だった。あのひどいクラッシュ事故のあとでも車が問題なく走れるよう、構成部品はほとんど"総どっかえ"に近い内容だった。マラネロの修理工房での作業は8月まで続いた。電装品の作業が終わってもなお完成させられなかったのは、ボディの製作が遅れていたからである。そこでマルゾットは決心する。事故車の残った部分を活かして、まったくこれまでにない形の車を造ってしまおうと。

編集翻訳:尾澤英彦 Transcreation:Hidehiko OZAWA Words:Massimo Delbo Photography:Remi Dargegen 取材協力:RMサザビーズ(www.rmsothebys.com)

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