ジャガー・ランドローバーが自ら自社の遺産をレストアする「クラシックワークスセンター」の全貌

コヴェントリーの絶頂期



「モダンカーの開発経験がここでも役に立つ。私たちはプロダクションに先んじて、通常で150台かそれ以上の認証プロトタイプを走らせるが、これらプロトタイプは少量生産用のツールで造られる。専用ツールで基本プレスを行った後は、ハンマーによる手たたきでの二次シェイプ。そして最後はレーザートリミングとハンドフィニッシュ。これは今回、Eタイプの新しいパネルを作ったのと同じプロセスだ。そしてオリジナルのボンネット型も経年で甘くなってくるので、結局はまた作らなければならなくなるだろう。私はその日のためにデッドストック(NOS)のシリーズ1と、シリーズ3のボンネットを保管しているんだよ」

参照資料のためにこれらEタイプドナーのボディパネルを分解することはあらゆる点において有益な学習だった。

「極初期に扱った車では目に見える錆がまったく存在せず、完璧に見えた場合でもアウターシルを剥いでみるとそこにはかなり悪化した表面錆が見られたことがある。これを経験として、今ではレストアするどのEタイプにおいてもアウターシルは交換することになっている」

赤いEタイプの左側のサイドシル部分の拡大画像では、開口部から見えるインナーメンバーは完全で、黒いどぶ浸けのプライマーも傷ひとつないようだが、それにもかかわらず、アウターシルは撤去し、ナトリウム結晶によるブラスティングで徹底的に清掃した後、新しいパネルを取り付けることになるだろう。またJLRのオリジナル工法へのこだわりはボディの修正に有鉛ハンダを用いるほどだ。

「最近のポリエステル系充填材などを使うのなら、その耐久性を証明するために認証プロセスを通し直さなければならないし、もっと肝心なことは、それが特にオープンカーにおいては、ねじれ応力に対処できないだろうことだ。すぐにクラックは生じないかもしれないが、将来的にそれが起こるリスクを無視するわけにはいかない」とポールは言う。ボディパネルはミグ溶接などの自動溶接ではなく、かつてと同じスポット溶接で組み立てられる。

そしてこれら「オリジナルの忠実な再現」はメカニカルパーツ対しても同様に厳密に適用される。JLRはエンジンリビルドも自社で行う。ラバーブッシュ等の消耗品は当然交換されるが、もしオリジナルパーツが磨き直しなどで再利用できるならば、極力再利用し、再仕上げが必要な場合は亜鉛メッキや黒エナメル塗装、ハンマートーン、その他すべてオリジナルのファクトリースペックで仕上げられる。

「ボディ、エンジン、内装、ペイントなど、当時社内で行われていたプロセスを再びすべて私たちが行うようにすることが重要だ。そうすれば品質、真正性、正確性すべてに責任を持てる」特に真正性は極めて重要だとポールは考える。また顧客のモディファイに関する希望は常に考慮するが、それが安全性に関するものなら改めて厳格なテストを通過させなければならない。たとえばエアコンディショニングやDAB規格のラジオ等なら問題はないが、パワーステアリングの追加には確認が必要で、アフターマーケットで流通しているブレーキコンバージョンキットなどは改めてテストと検証を行う必要がある。ただしジャガー純正の承認済後発部品をレトロフィットすることは、まったく問題ない。

自ら参入するということ
実は、私たちは取材車を試乗できなかった。理由は、この車はドイツを代表するヒストリックカー・イベントであるテクノ・クラシカ・エッセンに出展のため完成直後に運び出されてしまったからだ。世界のメジャーなクラシックカーコンクールでこの試みがどのような評価を受けるのかは大いに興味のあるところだ。果たして28万5000ポンドの正当性は理解されるだろうか。JLRリボーンプログラムは、極めてオリジナルに近く、かつ現代の標準にリファインされたクラシックカーを、オリジナルを生産していた会社自身が提供するものだ。外部企業やスペシャリストが高レベルのレストレーションを何年にもわたって提供してきていることを考えれば、新参者のJLRクラシックワークスが世間の注目を一手に浴びることは彼等にとっては面白くないかもしれない。しかし反論としては、もしJLRがリプロダクションパーツ、たとえば厄介なラバーシールの品質改善のハードルを上げたとするなら、それは結果顧客にとっても、またレストアされる車にとっても有益なことだ。ポールがパネルの"チリ"をシクネスゲージで計り、モールとボディパネルの間隔を7mmぴったりに合わせて、そのためシーリング材が適正に収まるのを知った時、彼の完璧主義に驚くだろう。

なにはともあれジャガーが自ら自社の遺産のレストレーションの音頭をとることには大きな期待が持てる。最初にお目見えしてから半世紀を経て、レストアを終えて再度新車となったEタイプが、生まれ故郷のブラウンズレーンとはコヴェントリーを挟んでちょうど反対側にあたるライトン・オン・ダンズモアのワインディングロードでテストされる巡り合わせ。頭を柔軟にして考えなければならない時代になったものだ。

まるで1960年代当時のジャガーの販売カタログのための写真のように見える。クラシックワークスセンターでレストアが完成した、入手可能なものとしては当時のオリジナルに極めて近いサンプルだ。リプロではないオリジナルラジオに注目。

編集翻訳:小石原耕作 Transcreation:Kosaku KOISHIHARA Words:Mark Dixon

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