ジャガー・ランドローバーが自ら自社の遺産をレストアする「クラシックワークスセンター」の全貌

コヴェントリーの絶頂期



エンスージアストによるエンスージアストのための
ポール・ブリッジスはクラシックワークスセンターのレストレーションマネジャーだ。プライベートでは年季の入ったEタイプオーナーであり、余暇にはそのレストレーションを楽しむ。彼はジャガー社のボディエンジニアリング部門に29年間在籍し、最近はFタイプをベースにしたプロジェクト7スピードスターのような少数生産のスペシャルのプロジェクトにも参加した。クラシックカーの専門家であるとともに車製造ビジネスのプロでもあり、今回の人事はまさに適材適所である。なぜなら、JLRにとってクラシックカーのレストレーションは単にブランドイメージのためではなく、新規ビジネスとして結果を出すべき事業だからだ。しかしポールは、たいへん熱心な筋金入りの愛好家でもある。彼は取材車両のレストア前の写真を示しながら言う。

「当時の組立工が黄色のクレヨンで書いたボディナンバーが見える。またこの写真から判ることは、ボンネットに残っているのがこの車のオリジナルで、赤だったこと。そしてストーンチップ保護のためのアンダーシールが施されていたこと。さらには通常であればEタイプで最も錆がひどい部分のひとつであるボンネットヒンジ周辺がほぼ完璧なコンディションであることから、この車が本当にラストフリーだということがわかる」

リボーンプログラムでは、たとえ新しいパーツを使ったほうが簡単で、安く済む場合でも、その車のオリジナルパーツを可能な限り多く残す方針である。ポールはテールランプハウジングに例に取って説明してくれた。

「極初期のころは、テールランプは間違いなくそれぞれに合わせて調整された。鋳造はベアボディに合わせて作られた後にメッキがかけられるから、どうしても太ってしまう。もちろん、古いものをリペアするかわりに新しい物を取り付けることもできるが、それでは私たちが作業を行う意味がない」

もしも、あなたが車のレストアにかかっていて、古い鋳物パーツをきちんとした下処理の上でメッキするためにその労力と時間について検討し、そしてまた車全体においてもそのように正しい方法を貫こうとしているのであれば、完成状態での28万5000ポンドの理由は理解することができるだろう。JLRにおけるドナーの条件は、できる限りオリジナルの状態で欠品がなく、錆がないこと。これらを発見するハンティンググラウンドは、雨が少なく乾燥した気候で車の文化程度も高いアメリカの西海岸を置いて他にない。取材車もここで発見されたものだ。シャシーナンバー1E31088、LHD、4.2リッターのフィクストヘッドクーペは、1965年5月11日にブラウンズレーンでラインオフ後、ニューヨークに出荷された。現在のラストフリーの状態から推測して、その後すぐにカリフォルニアに送られたものであろう。実際この車には、1963年から69年にカリフォルニアで使われていた、有名な黒字に黄文字のナンバープレート"ブラックプレート"がそのまま残っていた。理由は不明ながら、この車は7万8000マイルを積算した1983年にガレージに押し込められ、JLRが購入する直前までそのままだった。

編集翻訳:小石原耕作 Transcreation:Kosaku KOISHIHARA Words:Mark Dixon

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