フェラーリ128LM V12エンジンをレプリカにする究極の技術とは?

octane UK

ここに、フェラーリのモデルメーカーとして世界にその名を知られた親子がいる。テルツォ、そして息子のステファノ・ダリア氏だ。そんな彼らが語る、1/3スケールモデルの最高傑作が128LM V12エンジンとそのシャシー。

フェラーリ128LM V12エンジン。そして初期のレーシングカー、バルケッタ(290MM、290S、315Sと250TRの一部)に使われたシャシーの1/3レプリカ。これが、イタリアのモデルメーカー、テルツォ・ダリアの最新作だ。製作にのべ300時間を要し、長さ1.3m、重量23kg、2万2900ユーロというちょっとしたクルマ1台分の価格をもつレプリカを仕上げた。



実は、Octane英国版では何年も前にテルツォと息子のステファノを取材したことがある。二人は、1990年代後半から1/3スケールのフェラーリエンジン、トランスミッション、キャブレター、カムカバー、フロントグリル、シャシーの製作を開始した。偶然にも、最初に世に出した作品は1997年のフェラーリ50周年に完成。それを記念する“Il mito de Ferrari nel modellismo”(フェラーリ神話を再現したモデル)というコンテストにおいて、彼らの作品は総合1位に輝いたのだ。

それから約20年の歳月を経て、彼らの作品は芸術と言える領域にたどり着いた。今回の作品は、これまでで最も貴重なもので、製作数はわずか4台のみ(参考までに、初期作品250GTOモデルは36台だった)。

マラネロから10マイル、スカンディアーノにあるス
タジオで、ふたりはスクーデリア・フェラーリが1952年から1962年まで採用していた製造プロセスを忠実に再現し、その4台を仕上げた。

シャシーを形成するチューブを人の手によって成型、溶接。接合部についてもオリジナル制作当時と同じように、ブラシとやすりで研磨する。腐食防止のため、シャシーには透明の静電塗装が薄く施され、接合部の構造や本物の風合いは見事に表現されている。メカニカルパーツについては、一切ペイントされておらず、バラエティー豊かな仕上げの加工を魅入らせられる。マットやサテン、滑らかに磨き抜かれたものなど、見るだけでも価値があるといえる。


 
主要な部分は、砂型鋳造のアルミニウム。そして、原寸のオリジナルを製造するように、個々に空洞を作る中子(鋳型の中にはめ込む砂型)を使い、一体鋳物とはなっていない。何のためにそうしたかといえば、内側には12のピストンがあり、12のコンロッドで内部を上下に往復させる。そして完璧に機械加工されたクランクシャフトを回転させ、それがギアボックスとプロペラシャフト、さらに見事に鋳造されたディファレンシャルケースに至るまでを正確に動かすためだ。

その複雑さには、舌を巻く。エンジンを構成するパーツは400以上。そのすべてが一つ一つ機械加工され、接着剤を一切使わずに微少なネジで組み立てられている。より小さなパーツは、ステンレスやアルミニウム、真鍮を旋盤で加工したもの。全体の雰囲気も印象的だが、極小の細部に至るまで、まさに気の遠くなるような注意が払われているのだ。その繊細なディテール――例えば、ダウンドラフト・ウェバー・キャブレター6基それぞれの下についた銅製ガスケット。シフトゲートについたリバース・ロックアウトの仕上げの風合い。シリンダーブロックの鋳込まれた補強リブや、カムカバーを飾るフェラーリの銘のシャープな美しさ。マグネトーホールドクランプ……。どこに目を向けても、ほれぼれする。



この作品には十分な強度があるため、壁掛け(8本のフックをアルミビレットペグに掛ける)も、彫刻作品のように床の上に置くことも可能だ。台座は表裏とも、フェラーリのファクトリーで使っているのと同じポルトローナフラウ社の「ペレフラウ」というしなやかな革張りで、艶出し加工はフェラーリの内装をこの40年間担当しているモデナのルッピ社によるもの。

ステファノは語る。「これは、1年以上にわたる努力の成果です。設計や設備を完璧なものにし、試作品から改良版へと進化させてきて、ようやくこの作品に結実させることができました。うぬぼれに聞こえるかもしれませんが、ここまで成し遂げた作品は、間違いなくほかに例がないでしょう」

たしかに、気の遠くなるような複雑で難解な作業を得て、この美しい一台が生まれたという事実に異論がある者はいないだろう。

編集翻訳:松尾 大 Transcreation: Dai MATSUO 原文翻訳:木下 恵 Translation:Megumi KINOSHITA Words: David Lillywhite

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